第171話

 ドラゴン。

 異世界における定番。

 この世界においても、強力な魔物の一種。

 言うまでもなく、強敵だ。


 間違いなくミノタウロスよりも強い。

 その点で言えば、ヒーシャとナフがこいつに当たらなかったのは不幸中の幸いだが、それにしたって向こうも心配だ。

 とにかく早めにケリをつけなくてはならない。


 の、だが――


「おいおい嘘だろ……ATK200……?」

「魔物の数字じゃ……ない」


 幸い、バフを入れた俺のDEFならこれを上回ることは可能だ。

 だが、万が一でもATKを上昇させる能力を持っていたら、俺はひとたまりもない。


「……サラマンブルドラゴ、炎の魔物サラマンダーの一種でもある、強力な魔物」


 揺り籠から顔を出しながら、クロが回復する。

 揺り籠で解説すると、向こうにも話しが伝わってしまう。

 ただでさえ向こうは大変なのに、こちらの心配までさせたくないのだ。


 サラマンブルドラゴ、赤黒い皮膚と、大きな角が特徴のトカゲ型ドラゴンだ。

 雄牛ブルと名付けられた所以である大きな角は、それを振るうだけで冒険者を一層してしまえるだろう。

 相手が俺でなければ。


「とにかく、仕掛けるぞ」

「……ん、気を付けて」


 言いながら、再び剣をアイテムボックスから取り出して斬華を起動させる。

 相手は炎の魔物、これが効くかは正直怪しいが、足元にいる大量の魔物を先にどうにかしたかったのだ。


「――――!!!!」

「気付かれたな!」


 物陰から奴を観察していたが、流石に炎の剣を構えれば気付かれる。

 俺は構わず飛び出して、周囲の魔物に向かって斬華を振るう。

 魔物たちには流石、効果てきめんだ。

 ほとんどの魔物が一撃で消し飛んでいく中、攻撃範囲に含んでいるはずのサラマンブルドラゴにはダメージが入っている様子はない。


「……DEFを抜けてない感じじゃないな。ダイヤモンドオーガと同じ半減効果か」

「多分。そういう伝承を聞いたことがある。半減するの、炎属性だけ」

「揺り籠の中入っててくれ、あぶないからな!」

「ん……」


 クロが顔を引っ込めて、俺は雑魚の一掃に集中する。

 サラマンブルドラゴは動きを見せない。

 斬華は相手に効いていないが、流石にこの勢いで振り回されたら鬱陶しいだろう。


「――――――!!!!」


 雑魚魔物があらかた片付いた頃、サラマンブルドラゴが口から炎を吐いてくる。

 さすがドラゴン、イメージ通りの行動だ。


「だが、さすがに効かないな!」


 向こうのATKは上昇していない。

 ってか、ドラゴンブレスってATK計算なのか?

 ともかく、ノーダメージで炎の中を突っ切る。


「――!!!!」


 自分の攻撃が効いていないことに驚いているのか、咆哮しつつ顔を振り上げるサラマンブルドラゴ。

 角を振り下ろすつもりだ。

 上等!

 治癒魔法のバフ等も入れて、俺は揺り籠以外のバフをすべて乗せた拳を、振り下ろされる角にぶつけた!

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