第160話
どうやら、珍しく転移魔法陣にたどり着いたのは俺のほうが早かったようだ。
といっても、まだ三日目。
ここからどっちのほうが最終的に多く先に出口を見つけるかはまだ解らない。
まぁ、別に競うつもりもないんだけど。
「中層じゃ、まだそんな気にもならないしな」
『ん』
ともあれ、二人が帰ってくるまで、適当に時間を潰してようと適当にダンジョン入り口で壁によりかかる。
こうしていると、案外視線は俺に集まらないのがいいな。
俺の容姿は地味だし、装備も基本的には布製で鎧装備ほど目立たない。
ミスリルマギローブと言っても、ミスリルが使われているのは生地そのものなので、よく観察しないとわからないだろう。
だから、今の俺は一般冒険者の一人。
普段、視線を集めがちだからこういう機会は貴重だ。
「お、戻ってきたか」
しばらくすると、ヒーシャとナフが戻ってくる。
ナフの方は大きく伸びをしていて、よっぽど死弐鰐戦が大変だったんだろうと思わせる。
早速、二人に声をかけようとして――
「――見ろよ、ヒーシャとナフだ」
「ああ、あの面がいいって噂の」
不意に、変な会話が聞こえてくる。
コレは……どっちだ?
こういう会話は、やたらめったら持ち上げられるか、やたらめったら見下されるかのどっちかが定番だ。
前者だったらまぁいいが、後者だったら……ここは転生者らしい振る舞いをしないと行けないかも知れない。
人と喧嘩するのは御免被りたいんだがな。
「――変な男に騙されて、おかしくなっちまったっていう」
「ああ、そのくせ中層でもバカつええらしい、おかしくなってなけりゃなあ」
おい?
なんかこう、酷いこと言われるにしても、ちょっと思ってたのと違うぞ?
「聞いたところじゃ、その変な男のせいで今は一日一階層の勢いで中層を攻略させられてるらしい」
「頭おかしいだろ、ってかそんな速度で実際に攻略できる二人もバケモンだろ」
「元々、筋はいいってレベッカも言ってたからなぁ、変なやつが磨いたせいでああなっちまったんだろう」
決して話をしている連中は、ヒーシャとナフを貶してなんかいない。
むしろ、評価しているだろう。
言い方内容が最悪なだけで。
が、その最悪な言い方が全部俺に突き刺さってくるのは何なんだよ!
「それもこれも、あの変態が悪いんだ。そもそもダイヤモンドオーガとかいう怪物を倒せる時点で頭おかしいんだよあの男」
「まぁそんだけ強けりゃ、いい女手籠めにするのも普通っちゃ普通だが」
そこは普通なのか……まぁ、中世風異世界だしハーレムもあるよな。
「よりにもよって、あの背丈はなぁ」
「変態ここに極まれりだよな……ってか、話によると黒髪のガキとも付き合いがあるらしいぞ」
「マジもんじゃねぇか……」
おいこら待て!?
この世界だと、ロリコンはそこまで言うほどじゃないだろ? 知ってんだぞ!?
ドワーフとかいるからな、背丈であーだこーだいう方に風当たりが集まりやすい。
ああいう言動をする時は、たいてい男の僻みだというのがこの世界の常識だ。
クソ、こうなったら……
「よう、ヒーシャ、ナフ」
「あ、ツムラさん、待っててくれたんですね~」
ブンブンと手を降って、ヒーシャがこっちによってくる。
当然、色々言っていた連中の視線も俺に向いて――
「ヒュッ」
なんか、息を呑む音がこっちまで聞こえてきた。
まったく、変な噂話とかするからだ。
『……でも、ツムラが変態なのは事実だと思う』
『クロ?』
なお二人は、クロの言葉に首を傾げるばかりであった。
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