第159話(他者視点)

「……アタシ達、本当に倒せちゃったね、死弐鰐」

「そうだね、ヒーシャ。正直、未だに信じられない」


 通信を終えて、三階層の転移魔法陣に向かう途中。

 ヒーシャとナフの二人は、どこか実感がわかない様子で口々に零している。


 それもそのはず、通信ではそれなりに余裕がある風に振る舞っていたものの、二人の戦いは死闘そのものだった。

 集束レッドサイト使用後は死弐鰐を圧倒していたものの、そこに至るまでは綱渡りの連続だったのだ。


「強かったね、ナッちゃん」

「アレが下層だと、一番強い魔物じゃないって、正直下層はどんな魔境なんだろって不安になるよ」


 ダンジョンの下層というのは、様々な理由からどこも魔境と呼ぶにふさわしい場所である。

 魔物の強さだけではない。

 そこにいる冒険者たちも、一流と呼べるエリートなのだから。


「下層の冒険者は、全員ツムラさんほどとは言わないけど、私達より強い」

「……やってけるのかな、アタシ達」


 もちろん、二人の実力は高い。

 レベルは下層の適正には少し低いものの、それもこのままパワーレベリングを続けていけば補えるだろう。

 そして何より、だ。

 これはまだ、二人の認識が追いついていないために、実感もないが。


 だから、二人の考えは杞憂である。

 下層にたどり着いて、冒険者を続けていけばそのうち是正されるだろう。

 その上で――


「……ツムラさんは凄いね、ナッちゃん」

「そうだねぇ、全然届く気がしない」


 ――壁は、間違いなく二人の前に立ちはだかっていた。

 ツムラ。

 妖精の愛子にして、二人をここまで導いた者。

 疑いようのない変人であり、二人にとっては誰よりも信頼できる恩人だ。

 命の恩人であり、冒険者としての恩人。


 今の二人は、ツムラによって導かれたようなもの。

 だからこそ、色々と思うことは、ある。

 でも、彼は愛子だから特別なのは当然だ。

 なので、二人が思うところは、それ以外のところも大きい。


「愛子かぁ……ツムラさんって、どんな女の人が好きなんだろね」

「な、な、ナッちゃん何言ってるの!?」

「んふ、ヒーシャをからかいたいの」


 色恋沙汰は、乙女の常。

 しかしそれはそれとして、ナフは自分が色恋沙汰に関してはあがり症な点を棚に上げている。

 実は、一対一でツムラと話す時は、ヒーシャの方が積極的なのを、ナフは知らない。


「も-! ナッちゃんナッちゃん!」

「あはは……でもさー、ツムラさんは

「んぅ?」


 ポカポカするヒーシャと、ポカポカされるナフ。

 互いに、なんだかおかしくなって笑顔になりながらも。


「こんな風に、ずっとみんなで仲良くやってけたらいいよねぇ」

「そうだね、ナッちゃん」


 二人にとって、特別な人。

 彼の顔を思い出せば思い出すほど、二人は顔がほころんでしまうのだった。

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