第157話

 ナフのような必殺技を俺も作ろうと思った。

 なにせ、かっこいい。

 男として、ああいう必殺技の一つくらいは持っておくべきだろう。


「じゃあ、どういう必殺技にするの?」


 とは、宿屋で俺と話をしながらおやつを摘んでいたクロの問いかけ。

 心底興味がなさそうだった。

 クロ、こういうのにはあまり興味示さないよね。


「わたしは愛子が無双する話が好き、必殺技とか使う英雄譚は別に」

「今どきの読者め……」


 いいだろ別に、無双系主人公が必殺技使ったって!


 とはいえ、使うからにはそれなりに有用なものにしたい。

 レベリング中毒者というか、ゲーマーの性だな。

 まず考えたのは、火魔法をつかったブッパ技。

 こう、約束されたなんとかみたいな、カメハメハ大王のアレみたいな。

 分かり易い高火力技だ。


 だが、コレに関してはすぐに却下された。

 なぜって、魔法で大火力技はあまり意味がないからだ。


 ナフの裁断ストラグルアウトは、『斧攻撃:中級』を用いた必殺技。

 これが大火力になるのは、斧攻撃が魔法系スキルじゃないから。

 魔法系スキル以外で魔法系スキル並の火力を出すのが、大火力技の意義だ。

 魔法系スキルだと、すでに最大火力が何もせずともぶっ放せる。


 だから、俺は少し考え方を変えてみることにした。


「魔法系スキルを使うときに、ATKで攻撃できないか?」

「無茶……」

「そうは言っても、普段はATKの方が高いんだから」


 治癒魔法がMAGをバフしてくれないのが大きい。

 とにかく。

 そこから発想をスタートさせて、出来上がったのがこの『斬華』だ。

 炎を剣にまとわせる。

 すると、剣は炎で覆われ――


 ――回想を終え、現実にて。

 俺は炎を纏った剣を死弐鰐に向けて構える。


 この剣の発想元は、ナフの『エンチャント:中級』。

 魔法を剣にまとわせるのだ。

 纏った魔法は、火魔法でありながら、ATKで振るわれる剣に付与される。

 欠点は、纏った剣が最終的に融けて使い物にならなくなることか。

 一回350Gの必殺技、財布にはそんなに痛くないが濫用は禁物。


 これの利点は、剣に魔法が付与されたことで、火魔法をATKで使えるだけ――ではない。

 剣に付与されていようと、本質は火魔法であるということだ。


「悪いなワニ、少し実験台になってもらうぞ」


 飛び回る鰐。

 飛び交う水魔法。

 これをどうにかするのに、斬華は最適。

 というか、斬華の試し切りに、鰐は最適な相手だった。


 だから俺は、斬華を纏った剣を高らかに掲げて。



 その炎を、天井まで届かせる。



 炎は勢いを増し、さながら演出は勝利の剣。

 斬華の最大の利点。

 それは、ATKを参照する剣攻撃でありながら――炎を大きくすることで遠距離を範囲攻撃できること。


「さながら、シーン攻撃だな」


 アクションゲームの禁じ手、TRPGの強行動。

 俺は、それを容赦なく何度も振るった。

 鰐が回避するなら、回避した先にも攻撃が届けばいい。

 そんな単純な思想で。


 何度も、何度も。


 鰐は――やがて、動かなくなり倒れた。

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