第155話

 探索は順調に進んでいく。

 目につく魔物はすべて蹴り殺す勢いでやっているから、進度は俺のほうが遅い。

 それでも、一日数時間探索していれば、一階層攻略できる程度には順調だ。


 普通なら、被害覚悟で速攻クリアを目指すか、時間を駆けて一ヶ月以内にマップを完成させ攻略するらしい。

 だが、俺もヒーシャとナフも、現状中層で敵は全くと言っていいほどいない。

 俺の場合は、単純にステータスがレベル33のそれではない。

 装備もかなり整えているし、単純な数値の暴力はこのダンジョンで止められる敵はいないだろう。

 そもそも、下層ですら適正レベルは40弱なんだから。


『中層で一番強い魔物は、死弐鰐しにわに。ワニの魔物だけど、特徴は二つ』

「弐って付いてるくらいだしな」


 さて、現在の俺達は中層の三階まで来ていた。

 全体でいうと地下八階、中層の折返しだな。


『一つは、魔法を使う。威力は低いけど、MIDが低いと結構な脅威』

『初級水魔法か?』

『魔物の魔法はスキルで呼ばないけど、だいたいそう』


 魔物の魔法と、人の使う魔法は厳密には少し違うものらしい。

 具体的に言うと魔物の魔法は魔法で使える効果が最初から決まっているが、人間はイメージ次第で変えられる。

 間違いなく人間の魔法の方が上位互換だ。

 しかし詠唱である程度効果を限定している辺り、結局魔物式の方が使いやすくはあるんだよな。

 まぁ、俺にはあまり関係ないが。


『もう一つは、バフを使える。特定のタイミングでATKとAGIが大幅上昇』

『それは、タイミングを間違えるとかなり危ういな』


 俺でも、揺り籠でDEFを減らしてる時にバフられると危ないかも知れない。

 まぁ、揺り籠を使ってなければDEFを抜けないだろうから、揺り籠を使う理由がないんだが。


「で――」


 それはそれとして、なぜこんな話をしているかというと。


「――そいつが目の前にいる、と」


 いた。

 クソでかいワニがいた。

 邪ノシシよりでかい。


『強い分、そうそう出会わないけど……』

「でたら“おいしい”な」

『……そうだね』


 ATKは脅威の90。

 ここにバフが乗るってんだから、間違いなく中層最強だ。


「ガァアアアアアアア!!」

「おっと、怖い怖い」


 にしても、経験値はいくらくらいになるんだろうな……?


『……バフの上昇量はATKが30、AGIが60』

「AGIめっちゃ伸びるな!?」


 全ステータスの中で、一番伸ばしてもダメージに影響がなくて、わかりやすく脅威度が上がるからって。

 インフレし過ぎである。

 俺と大差ないじゃん。

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