第150話

「えーと、あの、その、えっと……今日はいい天気だね!」

「…………そうだな」


 めっちゃ天気は曇っていた。

 これから雨が振り出さないかと心配になるくらいだ。


「あ、あ、あ、えっと、ツムラさん、最近どう?」

「…………さっきまで、ナフ達とレベリングをしてたな」

「あ、うん」


 沈黙が満ちる。

 とても気まずい。

 何が気まずいって、こうなるとおそらくナフは俺から話を振ってもこんな感じだろうことが気まずい。

 話を持ちかけた方がどうしようもなくテンパってる以上、こちらからは何の手立てもないのだ。


「…………ああもう、どうして素直になれないんだ、私は」

「いいんじゃないか? それも個性だろ」

「で、でもさぁ……うう」


 なんて話をしながら、当てもなく街の中を歩く。

 ヒーシャのように夕飯を誘ってくる訳では無いあたり、話したい内容はそこまで長いものではないんだろう。

 それでも、まず切り出すところで足踏みをしている。


「えっと、じゃあ……ツムラさんにとって、私ってどんな存在?」

「……それ、本題より大胆な質問じゃないか?」

「え? ……あ、ああああああっ」


 ナフは頭を抱えてしまった。


「といっても、同じパーティの仲間だろ、俺達は。それに相応しい信頼関係は築けてると思うが?」

「うう……そう言ってくれると嬉しいけど」

「けど?」

「――ツムラさんって、強いよね」


 強い、ナフは俺をそう表現する。


「私達、ツムラさんに会う前よりずっと強くなったよ。でも、今ツムラさんと模擬戦しても、多分勝てないよね」

「そもそも、二人が全力出しても俺のDEF越えれてないからな。勝負が成立してないんだ」

「そうだね。だからちょっと申し訳ないな、と思うところもある」


 モンスターハウス作戦は、ヒーシャがいなければ成立しない。

 だから俺にも、二人とパーティを組むメリットは当然ある。

 んだが、二人を強くする行為は、そういうメリットを逸脱していたかもしれないな。


「俺は、強くなるのが好きだ。レベルを上げると強くなる、それが楽しい」

「変態だ」

「変態じゃない。とにかく、強くなっていく二人を見るのは、中々楽しかったよ」

「ド変態だ」


 ちょっと否定できないが、ドをつけるほどではない。


「……ふぅ、ちょっと緊張が取れたかも」

「ならよかった」

「だからね」


 と、ナフが足を止める。

 もうすでに夜も更け、当たりに人の気配はない。

 街明かりが俺達を照らしている。


「これ、プレゼント」

「……これは?」


 指輪だった。

 飾り気はないが、ほんの少し魔力みたいなものを感じる。


「アタシの……ええっと、処女作。オヤジに、初めて装備として使っていいって言われたやつ」

「……いいのか?」


 ヒーシャに悪い、という気持ちも少しある。

 初めての物を俺に渡すというのは、少し大胆に思えたのだ。


「ヒーシャには、もうわたしたよ。装備じゃなくて、包丁だけど」

「なるほど、たしかにヒーシャには日用品のほうがそれっぽいな」


 効果を見てみる。


『思いの指輪』

 効果:DEF+5 MID+5


 効果は、指輪としてはかなり破格に見える。

 エンチャントが、それだけ優秀なスキルなんだろう。

 何にせよ……


「ありがとな、ナフ」

「うん、だからツムラさん」


 そうして、ナフは笑顔で。



「これからも、よろしくっ!」



 少し、気恥ずかしそうにそういった。

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