第146話

「――強い敵と戦うのって、すごく楽しいんだよね」


 ハツラツとしながら、手斧を振るいつつ語るナフ。

 その目は明らかに今まで見たどんな時よりもキラキラしていた。


「自分を追い込む緊張感、強敵を打倒する快感。どれもこれもやみつきになりそうで、少し怖い」


 相手にしているのは――邪ノシシだ。

 上層最強魔物。

 今となっては、ナフとヒーシャの二人なら負けようもないけれど。

 俺がナフと初めて会った時、対峙していた魔物だ。


「私、ヒーシャとツムラさんが少し羨ましかった」

「羨ましかった?」

「うん、


 後ろで、ヒーシャが的確にバフを入れている。

 ナフ自身も、赤い光をきらめかせ、敵を引き付けながら自身を強化していた。

 水を得た魚のようだと、ふと思う。


「あ、アタシは……その、必死だっただけだから、えっと、ごめんねナッちゃん!」

「別に責めてないよ。呪われたのは私が弱かったからだし。むしろヒーシャを危険にさらしてごめん。あの時庇ったのは、考えなしだったかも」

「そ、そんなの……ナッちゃんは今も生きてるし……それに、今は楽しいよ?」


 ナフが、ではない。

 ナフとヒーシャが、だ。

 二人は、見違えるほど強くなった。

 もとより以心伝心、言葉なんて要らないくらい二人の連携は素晴らしいものだった。

 その連携に、を二人は手に入れた。


「うん、楽しい。強くなれることが楽しい。強い敵と戦えるのが楽しい。ヒーシャと頑張れるのが楽しい。ツムラさんとパーティを組むのが楽しい」

「少し照れるな」

「……まぁ、ツムラさんは偶に何言ってるかわからなくなるけど」


 失礼な。

 どちらにせよ、今の二人はとても満ち足りていた。

 俺としては、それを間近で見れてとても充実した毎日だった。


 レベリングは楽しい。

 強くなっているという実感があるからだ。

 同じように、誰かが才能を開花させ、覚醒する展開は個人的に大好物である。

 これを見るために、俺は彼女たちとパーティを組んだと言っても過言ではないだろう。


「だから……! これで、決める!」


 ナフが、邪ノシシを正面から吹き飛ばし、手斧を手放した。

 大斧――必殺を構える。

 その斧が、ナフの手から伝わった赤い色の光に包まれた。


 理屈は単純だ。

 斧攻撃スキルに、MPを費やしている。

 すなわち、これぞ正しく。



「――裁断ストラグルアウトッ!!」



 必殺技。

 今回の特訓でヒーシャが最終的に行き着いた、紛れもない彼女の成果である。

 結果、邪ノシシは一刀のもと、斬り伏せられた。


「これで……レベル30」


 どうして、わざわざ邪ノシシなんて相手と戦っていたか。

 次でレベルアップするのが理解っているからだ。

 もし、ここで覚えたスキルが鍛冶スキルでなかった場合、ナフは完全に冒険者に方向を定める。

 鍛冶スキルだった場合は、その逆だ。

 だから、一種のけじめとして、満足の行く戦いがしたかった。

 邪ノシシと戦いたいといい出した時、ナフの言った言葉である。


 そして、今。


「ステータスオープン」


 ナフが、自身のスキルを確かめ、道を定め――


「……『エンチャント:中級』?」


 ――なんか、戦闘にも鍛冶にも使えそうなスキルだな?

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