第142話
「私、前々から鍛冶師になるなら、武器にはかっこいい名前をつけたいって思ってたんだよね!」
「おお、ナフは話がわかるな」
「鉄鎧とか、名前が無骨すぎだよ!」
然り、然り。
確かに分かり易いネーミングだが、それはそれでロマンが足りない。
こう、ネーミングには中二的センスは必要なのだ。
「……そ、装備の名前はわかりやすほうがいいような?」
「そうそう、そうびだけに」
クロ。
とはいえ、ヒーシャの言うことは最もだ。
一般的な既製品なら、たしかに多少無骨でも伝わりやすい方がいいだろう。
それに関しては、俺も認めざるを得ない。
「だが、一品物なら話は別だ」
「そうだそうだ!」
力強く、ナフも同意してくれる。
「私は、常々母さんの遺品がもう少しかっこいい名前だったらなって思ってたんだよ」
「そうか……でも、店主に止められてたんだろ?」
「ううん、オヤジももし母さんに止められてなかったら、もっとかっこいい名前にしてたって言ってたよ」
そっちか……。
いやでもそうだよな、ナフのセンスが両親どちらかの遺伝だとするなら、店主の遺伝じゃないとおかしい。
母親からの遺伝だったら、母親の作品群は無難な名前になっていないだろうからな。
「男は……これだから……!」
「く、クロちゃんはかっこいいネーミングに、恨みでもあるんですか……?」
そして何故か憤るクロ。
まぁそれはそれとして、俺とナフの間でイメージの共有が行われた。
であれば後は、具体的に技名を決めるだけだ。
「そうだな……じゃあ技名は、灼光とかどうだ? 敵を燃やし尽くす灼の光だ」
「うーん、ターゲットサイトとかどう? 狙いをつけるドットサイトっていう愛子が使う赤い光の武器があるんだけど」
そこまでお互い口にして、俺達は停止する。
「……」
「……」
停止して、停止した。
「あ、あの……ふたりとも?」
「……あーあ」
オロオロするヒーシャと、しーらね、という雰囲気のクロ。
これは、アレだ。
「灼光」
「ターゲットサイト」
そう、アレである。
「灼光!」
「ターゲットサイト!」
――時に、男は誰にも譲れない場面というものがある。
ここで譲ったら、かっこいいネーミングの命名権を相手に奪われる!
これは、絶対に譲れない戦いだ!
「……やっぱりこうなった」
「ぴえ、助けてくださいクロちゃんー」
それからしばらく、俺とナフはそれはもう激しい討論を繰り広げた。
お互いの譲れないものをぶつけ合い、時には険悪な空気すら流れる。
激しい戦いだった。
そして――
「へっ、やるじゃん、ツムラさん」
「ナフもな――」
俺達は、二人で地面に倒れ込んで夕焼けを眺めていた。
ここが河原だったら、と思わずにはいられない状況である。
こうして、友情とは育まれていくのだ。
「……とりあえず、ネーミングについては保留で」
「ああ、そうだな」
なお、決着はつかなかった。
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