第135話

「――ナフの才能は、その度胸だ」

「度胸?」


 模擬戦を終えて、軽く休憩を取りながら話す。

 それぞれ、クロが人間モードで用意してくれていた飲み物を呑みながら、だ。


「ごくごく」


 まぁ、一番飲んでるのはクロなんだけど。

 ちなみに中身は麦茶である。

 愛子万歳、だな。


「まず、普通の人間は今のラッシュを涼しい顔で受けきれない」

「いやいや、受けきれてなかったじゃん。最後余裕でツムラさんが手斧弾いたし」

「あー、そっちじゃなくてだな」


 ふと、クロがナフの前に走り寄って――パァン! とねこだましをした。


「……? どうしたの?」

「むぅ」


 そして、更にヒーシャの前に言って、もう一度ねこだましをする。


「ぴひゃあああああ!」

「むふぅ」

「満足気にするんじゃない」


 ともかく。


「ヒーシャは大げさだけど、今みたいに目の前でねこだましをすれば、普通の人間は目を閉じる」

「……あ、そっか。そういえばそうだ」

「ナフは、俺と模擬戦をしてる時も、一度だって目を閉じたことはない」


 どころか――


「しかも、ナフはヒーシャのバフが失敗することを想定してなかった」

「? ヒーシャは凄いんだから、当然じゃん」

「だからといって、あの状況。一手でもヒーシャがミスればダメージを受けるとは思わなかったのか?」

「思ったけど……よ、私はタンクなんだから」


 つまりは、そこだ。

 度胸ってのは、タンクには必要な才能だろう。

 俺にはまったくもってそんな度胸備わってはいなかったが。

 一応タンクと言い張れるように、水魔法であれこれ試しはしたものの、未だにあれを実戦投入したことはないしな。


 だが、それにしたってナフのそれは異常である。

 恐怖を感じてないんじゃないかってくらい、怖いもの知らずだ。


「ヒーシャのそれが、バッファーにとっての天賦の才だというのなら――」


 感覚のままに、正しい選択を直感的に行える。

 繊細なバッファーの仕事を遂行するために、それは何よりも稀有な才だろう。

 そして、同時に。



「ナフ、君のそれはタンクにとして、誰もが持っているわけじゃない――特別な才能だ」



「……そっか」


 そう言われて、ナフは腑に落ちたように零した。

 納得と、感嘆と、それから――安堵。

 そんな感情がナフから読み取れる。


「よかった……私にも、そういう才能があったんだ」

「女神様、才能に合わせてスキルを与える。戦闘用のスキルだけを覚える人間、必ず才能がある」


 クロがそう補足してくれた。

 つまり、俺にもあるってことか?

 ……多分俺はアレだな、レベリングを無心で続けられる才能だな。


「……中には、ツムラみたいな変態も、いるけど」


 ちょっと待て?

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