第134話

「ぴえ、ぴえぴえ、ぴええええ」

「落ち着いてヒーシャ、ツムラさんは本気だよ」

「ぴえええええええ」


 ぴえぴえ鳴いているヒーシャとは対照的に、ナフは最初からこうなることが理解っていたかのように、得物の斧を抜き放つ。


「ど、どうしてぇ」

「獅子は子を谷に突き落とし……」

「ぴえええええ」

「脅すな、クロ」


 完全に遊ばれているヒーシャであったが、しばらくすると何とか気持ちを切り替えたのか、構える。

 戦闘開始だ。


「それにしても……ナフのATK、バフなしで102あるのか」

「ま、レベルも上がったからねぇ」

「邪ノシシが51だから、だいぶ高いな」

「誰がイノシシ娘だって!?」


 いや、そういいたいわけじゃないぞ!?

 ちなみにヒーシャのMAGも100あった。

 どちらにしても、このレベル帯ならかなり優秀だ。


「まったく、ツムラさんって偶にデリカシーが足りないね!」

「いや、こんなところで地雷を踏むとは思わなかっただけだが……悪い」

「ふんだ! ボコボコにしてやる!」


 俺のDEFは装備込で175。

 対するナフは、装備とヒーシャのバフ込で、ATKは最大167。

 ギリギリ、俺のDEFは越えられない計算だ。

 ちなみに大斧の話ね。

 手斧の方だと、もう少しATKは落ちる。

 にしたって、とんでもないATKだとは思うが。


「悪いが、ダメージを受けてやるつもりはない。こっちは加減するけど、一方的に打ち込ませてもらうからな! それを受けきってみせてくれ」

「む、無茶ですよぉ!」


 攻撃ステータスは加減が効く。

 意識してこの数値で殴ると考えながら殴ると、大体そのくらいのATKで殴る感じになるのだ。

 MAGも同様。

 だから、模擬戦をする場合はその加減を忘れちゃいけない。


「いいよ、やってやる! 私はイノシシ娘なんかじゃないもんね!」

「……ほんと地雷だったな、ごめん!」


 というわけで、ちょっと閉まらないが模擬戦は始まった。

 戦い方は概ねいつも通りだ。

 火魔法と拳を織り交ぜながら、ナフに攻撃を集中する。


「手数が多すぎる! 本番だとコレに火力が乗るとか、冗談も大概にしてよ!」

「まぁ、そこは愛子の特権だからな」


 手数の多さは、AGIの影響によるものが大きい。

 拳を振るう速度が、ナフのそれとは明らかに違うのだ。

 下手すると、倍以上俺のほうが早い。

 お互い、両腕と双斧をぶつけ合っているのに、ナフは手さばきで斧を拳にあわせることしかできていない。

 そうしている間にも、火魔法はどんどんナフに叩きつけられる。


「よっ! ほっ! やぁ!」


 どちらも、ナフのDEFとMIDを少し越えるくらいの威力でぶつけている。

 少しでもヒーシャのバフが遅れれば、ナフはそのまま押し切られてしまうだろう。


「ツムラさんの魔物! 魔神!」

「人聞きが悪い! ってか魔神ってなんだよ!」


 その状況は、続いた。

 最終的に俺が速度を上げて、ナフの手斧を弾いたのだが――三分間もの間、ナフは俺の拳を、受け止め続けたのである。

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