第132話

「ま、まったまった! ヒーシャのアレは天賦の才、他の誰にもない特別な才能……一種の特異じゃん」

「ああ、だけどナフにそういう特異がないとは限らないぞ」

「いやいやいやいや」


 ぶんぶんと、ナフが首をふる。


「そんなの知らない、私知らないよ。私が自覚してないのに、どうしてツムラさんが知ってるのさ」

「むしろ、だ。それくらい、ナフにとって当たり前の能力だからナフは気づかないけど、周りから見れば、はっきりわかるくらいの才能なんだ」


 そんな俺の言葉に、ナフはあたふたするばかりだ。

 まぁ、そもそも悩みの大前提の一つが杞憂だったとなれば、そうもなろう。


 俺も少し思い違いをしていた。

 ナフが冒険者の道に進むことを悩む理由が、ヒーシャと比べて才能がないからだと思っていたなら、彼女が解決法にたどり着けないのも納得である。


 ナフの悩みには、分かり易い解決方法がある。

 もちろん、ナフもそのことは理解っているだろうが、だからこそヒーシャとの才能の差を感じて二の足を踏んでいたなら。

 それは、とても勿体のないことである。


「保証する。ナフには才能がある。それを活かせば、冒険者としてヒーシャに並び立てる」

「で、でも……」

「それに、ナフにはだろ?」

「え……?


 俺は指摘する。

 これも、おそらくナフの思い違いみたいなものだろう。


「あの店主が、このタイミングで冒険者の道をナフに勧めたからだよ」

「そ、それは……私に鍛冶師としての才能がなかったからじゃないの?」

「もし才能がなかったら、店主はもっと早いタイミングでナフに冒険者の道を勧めてたんじゃないか?」

「……あっ」


 それは、近しい人間だからこそ見落としがちなことだろう。

 店主は何も、冒険者になってほしくて、その提案をしたわけじゃない。

 から提案したんだ。

 このタイミングで――ナフにとって、天秤を傾けられる最後のタイミングで。


「店主はナフに鍛冶師としての才能があるから、どっちの選択肢も尊重したいんじゃないか? あの人は、優しい人だから」

「……普段は、小言ばっかりなのに」

「身近で接してると、そういう面ばっかり目につくもんだよな」


 だから、ナフの問題は分かり易い解決方法に帰結する。

 もはやそれはナフにとっても自明の理だろう。


「ナフ、レベル30になった時、覚えたスキルで今後の道を決めよう」

「そのために、私は……冒険者としても、鍛冶師としても、どっちの道に進んでもいいよう努力する」


 鍛冶師としての道は、店主に頼めばいいだろう。

 彼なら、正しくナフに必要な指導ができるはずだ。

 そして――


「ツムラさん、本当に私にはヒーシャみたいな才能があるの?」

「なら――」


 ――冒険者としての道は、オレが責任を取る。



「――お願い、ツムラさん。私に冒険者としての道をしめして」



 もちろんだと、俺は応えた。

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