第131話

「ここ最近のヒーシャは、見違えるほど強くなった」

「ああ」

「レベルとか、スキルとか、そういう物差しで測れない部分がね? ……全部、ツムラさんが磨き上げた部分だ」


 バフを行使するタイミングと、魔法のアレンジ。

 どちらも、ヒーシャが冒険者として大成する上で非常に重要な能力だ。

 それが可能だと思ったから、俺は磨いた。

 ついでにパワーレベリングの効率化になると思ってた。

 人としてどうかと思うが、他人を助ける理由なんて大体そんなものである。


 そして、ナフはそれを間近で見ていた。

 思うところがあるのは当然だろう。


「私にとってヒーシャはかけがえのない幼馴染だけど、同時にいつかは巣立っていくものだと思ってた」

「巣立っていく?」

「だってそうでしょ? ヒーシャの才能は本物だ。ツムラさんが知ってる通り、あの子はすごい冒険者になるよ」


 なんなら、今だってすごいしね?

 そんなナフの言葉に、俺も頷く。


「そうやって成長したヒーシャを見てると、嬉しい気持ちと一緒に、寂しい気持ちも湧いてくるんだ」

「それはまぁ……自然なことだろ」

「そうだよね。……ほんと、ヒーシャは凄いや。あの子は、一人で何もない道を進んでいくのは苦手だけど、道標があればどこまでも進んでいけるタイプなんだ」


 積極性は薄いが、一度こうだと決めたときの行動力が高いのはヒーシャの魅力だ。

 それは、付き合いの短い俺でもよくわかる。

 ほとんど生まれた時から、それを見続けてきたナフなら、なおさらだろう。


「その点、私は中途半端なんだよ。道標があっても、道が二つあったら決めきれない。優柔不断で、はっきりしない」

「ヒーシャを導いてきたんだろ? ヒーシャから聞いてるぞ、冒険者としての周囲との交流は全部ナフがやったって」

「あはは、照れるな。……でもそれは、ヒーシャのためだからだよ。誰かのためになることなら、私は躊躇わない」


 なるほど。

 そう言われると、わかる気がする。

 他人の面倒見はいいが、自分の面倒を見るのは苦手なタイプ。

 同類の黒髪妖精がそんなふうに評していたが、たしかに。


「自分も他人のように、とはいかないか」

「他の人のことなら、仮に失敗しても、その失敗を取り返せばいい。でも、自分のことになったら? 他の人に迷惑なんてかけれない。二の足を踏むよ」

「それは……責任のとり方が随分特殊な気もするが」

「それに――」


 どうにも、ナフが二つある道のウチ、どちらかを選べないのは本人が優柔不断だから、以外にも理由があるように思える。

 彼女は、それを口にしようとしていた。


「――私には、才能がないんだ。スキルこそ戦闘用スキルだけしか覚えてないけど、それ以外がない。ヒーシャの感覚みたいな、スキルに頼らない武器が……」



「ん? あるぞ?」



「えっ?」


 もしかして、才能が無いことが理由?

 だったらそれは勘違いだぞ?

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