第130話
「一応さ、こっから本格的に鍛冶師を目指せば、ちゃんとした鍛冶師にはなれると思う」
「っていうと?」
「スキルの『鍛冶:中級』を覚えられるかも知れないから」
鍛冶スキル。
おそらく、それがないと一人前の鍛冶師になることは難しいんだろう。
だって鍛冶スキルだぜ? 名は体を表すっていうけど、そのまんまじゃん。
やばい。
「鍛冶師事態は、初級スキルがアレばなれるよ? 実はオヤジとか、鍛冶スキルは初級しか覚えてないからね」
「あの店主さんが!?」
「鍛冶と戦闘で両用できるレアスキルを持ってるから、その恩恵は大きいけどね」
そんなレアスキルあるんだ。
っていうか、店主さんレベル40あるんだ……見た目通り強いな。
「っていうか、オヤジは鍛冶師としてはそんなに才能無いタイプなんだよ。とにかく堅実で、安定感のある鍛造が得意だけど、他の誰にもできない武器を作ったりはできない」
「もしかして、そういうのは奥さんの方が得意だったりするのか?」
「うん。鋭いねツムラさん」
店主の作品は既製品が多く、奥さんの遺品はユニークなものが多い。
だから、ある程度察せられないわけではなかったけれども。
才能がないって断言されるとは思わなかった。
「才能はなくても、鍛冶師として大成することはできる。ツムラさんが今着てるミスリルマギローブはその証。だからまぁ、いまから私が鍛冶師の修行をすれば、多分オヤジみたいな鍛冶師にはなれるとおもう」
「だからこそ、ナフの目標は店主の後を継ぐことだったわけだものな?」
うん、とナフはうなずいた。
でも、ナフの適正はそうじゃなかった。
「まさかレベル20になるまでの間、一回も鍛冶スキルを覚えないとは思わなかった」
「まぁ、そうだな」
「私、冒険者になるまで戦ったことなんてなかったんだよ? それなのに、どんどん戦闘用スキルばっかり覚えてくんだから、驚きだよね」
そう語るナフの声には、二つの感情が複雑に入り乱れてるのが垣間見えた。
感謝と、落胆。
戦闘スキルを多く覚えたことで、ナフはヒーシャを導く冒険者になれた。
だが、同時に鍛冶スキルを覚えないということは、ナフの望みが断たれるということでもある。
だから、ナフのその感情は、どちらもが本音なんだろう。
どちらかに天秤が傾くことのない、偽りない本音。
本来なら、まだ傾ける必要のなかった天秤。
「――もうすぐ、私はレベル30になる。ここで戦闘用スキルを覚えたら、多分もう二度と鍛冶スキルは習得できない」
「ナフ自身が、本心ではそう望んでるから、だな」
「うん。だから、それならそれで受け入れようはある。でも、今の私はこうも思ってる」
ああ、これは。
確かに、俺にじゃないと相談できないことだよな。
「ヒーシャには、もう私は必要ないんじゃないかって。それくらい、今のヒーシャは強くなった」
俺が、ナフの天秤を傾けた。
ヒーシャを変えて、ナフの時計の針を急速に進めた。
その責任は、間違いなく俺にある。
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