第121話

 まぁ、なんてことはない。

 悩みなんてのは、口に出した時点で半分くらいは解決してるものだ。

 余裕のない人間は悩みなんて口に出せない。

 ヒーシャなんて、まさに典型である。


 モンスターハウス作戦のなかで、レベルを一気に二つも上げた。

 それだけではない、戦い方は洗練し、魔法のアレンジすら成功した。

 稼ぎもよく、こうして高級レストラン(まぁ、ファミレスだけど)で食事をする余裕もある。

 そんな人間の口から出た悩みは、果たして悩みと言えるだろうか。


 言ったはずだ、コレは回顧。

 ヒーシャが、自分の乗り越えた悩みを、回顧しているのだと。


「だからヒーシャ、俺からかけれる言葉はこれだけだ」

「は、はい」


 本当に、ただ一言。


「よく頑張ったな、おめでとう」


 それ以外に、かけれる言葉がない。


「…………」


 ヒーシャは、それに――


「……はい」


 また、涙を流した。

 ただ、一筋だけの涙だ。

 本人が気付いて拭うと、それ以上の涙はない。

 ずず、と鼻をすすってそれで終わりだ。


「そう、ですよね……アタシ、もう成長してるんですよね」

「ああ、保証するよ。ヒーシャのことを知っている全員が、今のヒーシャを成長したって言うはずだ」


 そう言って、ヒーシャは出された水を一口だけ口に含んだ。

 ここまで喋り通しだったからな、無理もない。


「……アタシ、誰かにすごいって言われたことなら、あります。でも、自分に自信がないから、それを素直に受け取れなかったんです」

「まぁ、謙虚だったってことだろ」

「あはは……でも、初めてだったんです」


 初めて、というのは。


「誰かから、頑張ったってねぎらってもらうのは」

「……なるほど」


 そりゃあ確かに。

 正直、言葉の上では本当にちょっとした差でしかない。

 ねぎらいも、褒めることも。

 ただ、受け取る側の心境次第で、それはまったく違うものになることもある。


 例えば――


「これまで、アタシのことを褒めてくれる人って、アタシにとっては身近な近しい人でした」

「対等、っていいかえることもできるかな」

「あはは……それはちょっと気恥ずかしいです」


 ヒーシャにとって、身近な近しい、対等な人から投げられる称賛はむず痒いものだっただろう。

 とはいえ、それはもちろん悪いことでは決してないんだが。

 単純に、それは――



「ツムラさんが初めての人、だったんです」



 ヒーシャにとって、少し遠いけれど、だからこそ自分のことをねぎらってくれる初めての“他人”。

 それが、俺だった。

 まぁ、むず痒い話しだったが。


 ――多分、俺とヒーシャに関しては、これでよかったんだろう。



『――――初めて?』



 あ、面倒なのが起きてきた。

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