第120話
「――アタシの人生にはこれまで、家族と、ナッちゃんと……ほんの少しの周りの人しかいませんでした」
訥々と、ヒーシャは語る。
それは回顧だった。
「冒険者になって、レベッカさんっていう知り合いが増えました。でも、多くの人と関わる冒険者になったても、アタシの周りには、レベッカさんしか増えなかったんです」
「まぁ、レベッカさんが増えてるだけでも、進歩だろ?」
「レベッカさんだって……最初に仲良くなったのはナッちゃんです。他の冒険者さんとお話するのもナッちゃん。アタシは、それを後ろから見てるだけ」
まぁ、それなら確かに、ヒーシャは何もしていないかもしれない。
しかし適材適所とはいうが、ナフがそれに向いているタイプだったから、本人が率先してやってしまったというのもあるだろう。
ナフとヒーシャの関係っていうのは、常にナフがヒーシャを引っ張る立場だったはずだ。
「正直、それでもいいのかなって思ってました。楽だし、変える必要がないなら」
「まぁ、それもアリかナシかでいえば、別にナシじゃないだろうしな」
というか、十分アリだろ、それでも。
前世で俺は、そんな何かを変えて行こうという意思を人生の中で示したことがあったか?
「――ダイヤモンドオーガの件までは」
ただ、ヒーシャの場合は、変わらなくちゃいけなくなった。
問題は――
「でもアタシ――変われなかったんです。ううん、違う。変わっても、何もできなかったんです」
ダイヤモンドオーガは、ヒーシャ一人でなんとかするにはあまりにも荷が重すぎた。
レベッカさんにだって、どうすることもできないだろう。
聞けば、レベッカさんはダンジョンハザードの件に因縁があるという。
それでも、ダイヤモンドオーガはダメだ。
「……結局、それはツムラさんが解決しました」
「いや……そうじゃないと思う」
「え?」
アレは、当然俺一人だって解決できない。
災厄、そうとしか言えないものだった。
「誰か一人じゃダメだったんだ、アレは。一人の力で、アレはどうにかなる問題じゃなかった。その中には、間違いなくヒーシャもいたよ」
「……なら」
俺は、そう訂正することでヒーシャを慰めようとしたんだろう。
しかし返ってきた言葉は、
「アタシにとって一番の問題は、そんな大きな事件を解決するっていう機会で、成長できなかったことだと思います」
俺の、思ったものではなかった。
「変わるきっかけがなかったから、変われなかった。それなら、まだ言い訳はできます。でも、きっかけがあっても変われなかったら?」
「それは……」
あの事件で、ヒーシャは大きな役割を果たした。
だが、それが成長につながるかといえば別の問題で。
そこをヒーシャは悩んでいたんだろう。
きっかけがあれば、人は変われる。
なら、変われなかった人間に、価値はあるのか?
そんな悩みを。
ああ、なんというかそれは――
「ヒーシャ、それは。すでに君の中で悩みが解決しているからこそ、俺に話してるんだろ?」
なんとも贅沢な、悩みであった。
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