第112話
これは、クロと詠唱の概念を考えた愛子について話をしていて、気付いたことだ。
「なぁ、クロ。詠唱って無駄が多くないか?」
「ん? うん、そうだね」
「……やっぱりか」
詠唱には無駄が多い。
もっと言えば、無駄に長い。
簡単に言えば、こんなもったいぶった詠唱全部言わなくても、魔法は発動するだろって話。
詠唱は、女神への祈祷を魔法の発動キーワードにしたもの。
故に元となった祈祷の言葉――聖句が存在する。
しかし、詠唱と聖句を比べると、明らかに詠唱のほうが長いのだ。
戦闘中であれば、その詠唱をすべて唱えていると、どう考えても間に合わない状況が多いのだ。
必然的に、戦闘が忙しくなる高レベルの冒険者ほど、詠唱は省略していくものである。
「詠唱、二つの意味がある」
「二つ?」
「一つ、詠唱で確実に魔法を発動させる」
曰く、詠唱は一言一句正確に行えば、魔法は必ず発動するそうだ。
これは詠唱の内容が、発動した魔法の効果を詳細に語っているからだそうで。
たとえ頭の中で魔法のイメージができていなくとも、詠唱によって効果を指定すれば魔法は発動する。
誰でも魔法を使えるようにするという、詠唱の根底にある理念を体現しているんだな。
「二つ、長い詠唱で、使い手に煩わしさを与える」
「……わざと長くして、使いにくくしてるってことか?」
「そう」
二つ目は――はっきり言って盲点だった。
使いにくくすれば、詠唱で魔法を発動する魔法使いは、詠唱の長さに煩わしさを感じるだろう。
そうすると、自然。
詠唱は簡略化されていく。
「最初からそうなるように、愛子が設計した」
「はー、なるほどな」
さすがは愛子、面白いことを考える。
そして、それを聞いた俺も一つ思いついた。
「じゃあ、その煩わしさ、他のことにも使えるんじゃないか?」
「たとえば?」
それこそが、つまり――
「――煩わしさで、魔法の効果をアレンジする」
話は戻って、ヒーシャに魔法のアレンジをしてみようと頼むところに戻る。
つまり、今だ。
回想終了ってことだな。
「う、うーん。理屈は解りましたけど、本当にできるんですか?」
「できるようにするために、これまで俺はヒーシャにあることを練習してもらってきたんだ」
「えっと……それってつまり」
そう、バフの切り替えだ。
「というわけで、ヒーシャ。これからのモンスターハウス作戦におけるバフの切り替えは、全部中級魔法でやってみてくれ」
色々遠回りしたけれど。
方向性は示した。
ここまで、具体的な話をすれば、
「……わ、わかりました」
ヒーシャも、了承してくれる。
ならば後は、実践あるのみだ。
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