第109話

 流石に一日で結果が出ることはなかった。

 あまり長く練習していると、午後のモンスターハウス作戦に必要な魔力が足りなくなるためだ。

 MPが四割消費されたところで切り上げ、モンスターハウス作戦に望むこととなった。


 とはいえ、すでに方法の確立されたモンスターハウスで、変なことはそうそう起きない。

 起きないようにするために、上層でモンスターハウスを作っているという側面もある。

 中層以降でモンスターハウスをやるのは、二人が安定して中層の魔物を倒せるようになってからだ。


 そんなわけで、数日の間、俺達は練習とモンスターハウスを同時に行う日々を送った。

 その度にナフが変な扉を開きそうになったり、それを見てクロが何故かサムズアップをしたりしながらも。

 少しずつ、ヒーシャの魔法行使の精度は上がっていった。


 変化が起きたのは、練習を初めて数日が立った時のことだった。


 俺達は、出現した邪ノシシを相手にしていた。

 出てくるだけで、100EXP確定。

 三人で倒せばそれだけ美味しい、上層における当たり枠だ。


 とはいえ、ナフとヒーシャの二人で相手するには面倒な魔物なのだが――


「ナッちゃん!」

「ああ!」


 ナフに防御支援をかけて、ナフが邪ノシシを受け止める。

 防御はこの時、ナフの方が高いから、邪ノシシは完全にナフへ釘付けとなるわけだが――


「今!」

「!!」


 ヒーシャが叫んだ。

 すると、それに合わせてナフが邪ノシシを受け止めていた斧を


『やる気か!?』

『うまくいくかな』


 即座にフォローに入れるよう、火の玉を周囲に生み出しながら、俺は趨勢を見守る。


「やぁ!」


 ヒーシャはそこに、をナフにかける。

 するとバランスを崩しながらも、斧による支えのなくなった邪ノシシが、ナフに襲いかかり――


 それよりも早く、ナフが大斧に手をかけ、それを振るう!


「力を!」


 そして、最後に邪ノシシに攻撃が入る直前。

 ATKバフを乗せた。


 結果――邪ノシシは勢いよく吹き飛ぶ。


 これだけでも、一気に状況はヒーシャとナフに傾く。

 だが、それだけで終わらない。


「ヒーシャ!」

「うん、ナッちゃん!」


 ヒーシャはナフに速度バフをかけた。

 これで、ナフは一気に邪ノシシへ肉薄。

 大斧を邪ノシシに叩き込んでいく。


「俺も一発入れておかないとな!」


 そこに、火の玉を叩き込む。

 そうしないと経験値が入らないんだよ。

 とはいえ、俺が攻撃を叩き込む前に、戦闘はほぼ決着していた。


「これで……!」


 ナフが最後に、ATKバフを受けた大斧を振り下ろし、


「終わり!」


 邪ノシシを倒した。

 結果だけいえば、いつも通りだ。

 だが、その内容はこれまでとは全く異なる。


「――崩せちゃった、私達だけで」


 ナフの言葉が象徴するように。

 これまでは、俺が牽制していなければ、ヒーシャ達は突っ込んできた邪ノシシを崩せなかった。

 だが、今回は二人だけで邪ノシシを崩せたのだ。

 言うまでもなく、それは大きな進歩だった。

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