第108話

「色々言いたいことはあるんだけどさー」

「なんだ?」


 時刻はまだまだ午前中。

 森の中で、いよいよヒーシャの特訓が始まる。


「これ、私いつまでこうしてればいいのさ」

「頑張って、ナッちゃん」

「そ、そっか」


 何をしているかといえば、簡単だ。

 まず、ヒーシャを気持ちよくして魔物を呼びだす。

 森の中なので、出てくるのは当然ゴブリンどもだ。

 その後、ナフにヘイトスキルを使ってもらう。

 するとゴブリンたちはナフに向かって言って、棍棒でナフに殴る蹴るの暴行を加えている。

 言うまでもなく、DEFを抜けないのでノーダメージだ。


 なんか、如何わしい光景に見えなくもない。

 ナフは背が低いので、なおさらだ。

 それはそれとして、本番はここからである。


「じゃあヒーシャ。言った通りナフを守ることを意識して、ナフに棍棒が当たる瞬間だけ、DEF強化の支援魔法を使ってみてくれ」

「は、はい!」


 やることは俺が言った通りだ。

 今、ナフはひたすら棍棒でボコボコにされている。

 ダメージはないとはいえ、悲惨な光景だ。

 それに対して、ヒーシャはナフを守りたいという気持ちで魔法を使う。


 使うのは、ナフが棍棒でダメージを受ける(受けない)一瞬だけだ。

 ここが一番大事なポイント。

 俺が思い描いている、ヒーシャが強くなるための戦闘スタイルに関わる部分だ。


「え、えいっ! えいっ!」

「んーなんか、むずむずする。元々防御を攻撃が越えてないから、ダメージが通ってるかも分からないし……」


 ヒーシャが、支援魔法を使ったり、その効果を切ったり。

 スイッチを頻繁にオンオフする感じでナフにバフを行っていく。

 詠唱のない魔法の行使は難しく、魔法を使ったり使わなかったりするだけでも、最初はひと手間がかかる。

 ここは、詠唱による意識付けと同じく、反復による意識付けを身体に覚えさせるしかない。


「やぁ! やぁ!」

「スイッチのオンオフを考えてやるんじゃない、感覚でやるんだ!」

「うう、変な感じだぁ、ずっとポコポコされてる。ヘイト取ってるんだから当たり前だけどさぁ」


 最初のうちは難しい。

 だが、ヒーシャは感覚派だ、一度つかめば一気に良くなるはず。

 なにより、はたから見ていても少しずつ、正確に魔法のスイッチを切り替えられるようになってきている。


「うまくいくか心配だったが、これならなんとかなりそうだな」

「ん、ヒーシャは大丈夫。でも、問題発生」

「……問題?」


 俺の横をふわふわ浮いているクロが、ナフを指差す。


「んんー、なんかこう、ぞくぞくしてきた。変な感じだよー」

「……何かに目覚めそう」


 やべぇ。


「ヒーシャ! 急がないとナフが変な扉を開いちまう! 急いでスイッチのオンオフを正確にできるようになってくれ!」

「は、はひー!」


 なんというか。

 なんだかよく理解らない光景が、そこでは繰り広げられていた。

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