第107話

 俺は魔法をイメージだと考えているけれど、一般的に魔法とは詠唱で発動するものだ。

 なんで詠唱が必要かといえば、反復で身体になじませやすいから。

 たとえ魔法の発動をイメージしていなくても、詠唱すれば魔法は勝手に発動すると認識していれば、魔法は発動する。


 それってたしかに魔法を発動する上では楽だけど、もったいなくないか?

 みんなは俺が上級クラスの治癒魔法を初級で使っていると言うけれど、それは正確ではない。

 初級でも本来なら上級クラスの治癒魔法並の効果を出せるのに、詠唱がそれを縛っているというのが正しいのだ。


 まぁでもそれは、そもそも“詠唱”という概念がどうして誕生したかを考えれば、なんとなく納得できる。


「詠唱、魔法を誰でも使える。そう愛子が考案した」


 魔法の歴史に詳しい――というか、長生きしている分この世界の歴史に詳しいクロがそう解説する。

 元々、この世界の魔法に詠唱なんてものはなかったのだ。

 イメージによって魔法を発動させる、俺のやり方が主流だった。


 だが、そうするとそこには才能や環境の差が生まれる。

 中には、そもそも魔法を発動することができない人間までいるほどに。


「そこで、詠唱。女神様に捧げる“聖句”を参考にした」

「この世界で、女神に対する信仰は篤い。だから魔法の発動を女神に信仰を捧げる行為と結びつけたんだな」


 俺の補足を肯定するクロ。

 詠唱の内容は女神に祈りを捧げ、どうか魔法を発動させてくれと願う物が多い。

 それによって魔法が発動すれば、人々は魔法は女神がもたらしていると認識するようになる。

 なるほど、よくできたシステムだ。


「だ、だからえっと。強い冒険者さんは、詠唱を自分流にアレンジしたり、そもそも省略したりすることもある、んですけど……」

「ヒーシャはまだまだ、冒険者としては駆け出しだよ。いきなりアレンジしたり、省略したりできないって」

「まぁ、普通ならそうだな」


 クロの解説を聞きながら、俺達は話し合いをしていた。

 俺はヒーシャの魔法をもっと感覚的に使えないかと提案したが、それは一般的にかなり上級者向けのテクニックだった。


 でも、できないことはないと思うのだ。

 ようは魔法を詠唱で発動できるように、印象付けを愛子がやったように。


「だから、柔軟にアレンジするんじゃなくて、状況に応じた使い分けを増やそうって感じだな」

「え、えっと……使い分けを増やすとどうなるんですか?」


 幸いなことに、ヒーシャは俺の言葉へ積極的に耳を傾けている。

 ヒーシャ自身にやる気があるからだ。


 なら、俺はそのやる気を更に引き出してやればよい。


「――


 その言葉に、


「!!」


 ヒーシャの目の色が変わるのを、俺は見逃さなかった。

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