第100話

「これでよし」

「いいのかなぁ……」


 アイテムボックスから取り出した“それ”を、通路を封鎖するための置物にして、俺達は準備を終える。

 置物にしたのは、ドワーフ工房に飾ってあった店主製の鉄鎧だ。

 飾るための台ごと持ってきて、部屋の出入り口に置くといい感じになる。


「ちゃんと代金は、台のぶんまで置いてきたしじゅーぶんでしょ。ま、オヤジには宣伝か何かだと思ってもらって」

「な、ナッちゃんがこの街で冒険者をしてるってことは、冒険者なら誰でも知ってるような……」


 ドワーフ工房は、そもそもこの街有数の武器屋らしい。

 その娘で、顔がいい。

 冒険者をしている。

 知名度上がらないわけないよな。


「隣にヒーシャがいれば、なおさら有名にもなるか」

「あ、あぅう……なんでアタシ?」


 顔よし、雰囲気よし、存在感よし。

 色々揃いまくったヒーシャは、本人の気質が目立つことにとことん向いていない。

 そこをナフがサポートするのだから、まぁいいコンビなんだろうけど。


「ふふ、ヒーシャは見てて楽しい、眼福」

「この妖精、なんかツムラさんより目線がやらしいんだけど」

「解らん……こいつの何がそうさせるのか……」


 なお、クロは外に出ていた。

 これから揺り籠を介して、仲間たちと交流を図るのに際し、一人だけ揺り籠から実況状態だと空気感が合わないという話。

 人のいないところでは、今後顔を出していくようだ。


「つ、ツムラさんの目線はやらしくないですっ」

「男って時点で、ヒーシャに目線向けないのは無理だよ」

「…………」


 ヒーシャの擁護と、ナフの言葉に俺は沈黙で応えた。


「とにかく、始めよう」

「は、はいっ」

「分かったよ」

「んー」


 全員が返事をして、クロが揺り籠の中へ入っていった。

 さて、早速パワーレベリングを始めるとしよう。


「んぅ……いっぱい、でました」

「ヒーシャ、言い方!」


 ぼーっとした様子で、そんなふうにこぼすヒーシャ。

 その言葉通り、俺達の周りには複数の魔物が出現している。


 ゴブリンやスライムから、果ては邪ノシシのような大型モンスターまで。

 はたから見れば、ほとんど死んだも同然の状況だ。


 実際、邪ノシシなどはヒーシャたちにはまだ厳しいだろう。


『俺が、倒しにくい魔物を倒していく。ナフはヒーシャを守りながら迎撃。ヒーシャはナフに支援を回す。コレで行こう』

『相談した通りに……ですねっ』

『ツムラさんへのバフは要らない?』

『この相手なら、必要ない』


 俺にはサーチハンドと、馬鹿みたいに高い防御ステがある。

 見れば、ATKは最大で邪ノシシの51だ。

 あいつのATK51だったんだな……


 とはいえ、それならナフに防御系のバフを入れれば、防戦は問題ないだろう。

 そうすると、今度は決め手にかけるから、どっちにしろ二人で邪ノシシは難しいんだが。


『んじゃ、レッツゴー』

『音頭とるのお前か、クロ』


 というわけで、俺は魔物に向かって突撃した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る