第99話

 ある程度の検証が終わって、わかったこと。


 一つ、魔物の出現範囲はだいたい半径30m前後。

 ある一定の距離までしか、ゴブリンはポップしなかった。

 これはおそらく、俺が更にヒーシャを健康にすれば効果範囲が大きくなるだろうが、流石にアレ以上健康にしてしまうと、依存性の問題がありそうなのでやらない。

 まぁ、最悪依存性を治癒魔法で“治療”してしまえばいいんだけど。


 二つ、魔物は基本的にヒーシャを狙ってくる。

 呪いがそういうものなのだから当然だが、魔物たちは俺達がいても一目散にヒーシャへ向かっていった。

 挑発スキルでヘイトを取ればナフへも向かっていくのだが、俺は基本的に無視されるようだ。


 三つ、部屋の中で発動すると、部屋の中でしか魔物は出現しない。

 これは森での検証が終わってダンジョンでモンスターハウス作戦を試してからわかったことなのだけど、魔物は1つの部屋の中にしか出現しない。

 ダンジョンは通路と部屋が複雑に入り組んでいて、どう考えても半径30mより広い場所に通路がある。

 が、そういう場所に魔物は出現せず、あくまで俺達がいる部屋にだけ魔物が出現した。


 これらのことから、モンスターハウス作戦のやり方はこういう感じになった。


 まず、ダンジョンの中で行き止まりになっている部屋を見つける。

 その入口に何かしらの物を置いて封鎖する。

 ヒーシャを過剰回復してモンスターハウス作戦開始。

 だいたいこんな流れだ。


 入り口は、封鎖しておかないと別の冒険者が入ってくる可能性がある。

 いずれ、俺達がパワーレベリングをしていることは他の冒険者も知ることになるだろうが、それまでは危険をなくすためこの処置は必須だ。


 というわけで、俺達はこれから部屋にこもりモンスターハウス作戦を開始することになるわけだが……


『そういえば』


 ダンジョンに入る前、不意に揺り籠からクロが話しかけてきた。

 今日一日検証をしていたのだが、その間はずっとぐーすか寝ていたのを、今になって起きてきたらしい。

 が、問題はそこではない。


「ひゃあ!?」

「だ、誰だ?」


 その声に、ヒーシャとナフが反応した。


「ふたりとも?」

『んん、わたしの声、二人にも聞こえてる』


 どういうことだ?


『はろーはろー、ヒーシャ』

「そ、その声……クロちゃん、ですか?」

『うん、頭の中で声を出す感じで、何かを考えてみて?』

『えっと……ツムラさんの治癒魔法気持ち良すぎます……?』


 なぜそれを考えた?

 ともあれ、どうやらこういうことらしい。


『揺り籠の機能。パーティメンバーにも、わたしの声、聞こえる』

『はぁ、アンタが噂に聞く、妖精のクロか。よろしくな、アタシはナフ』

『よろしく』


 そういえば、クロとナフは直接会話するのはこれが初めてだった。

 脳内会話で自己紹介とか、異世界でも中々ない光景だな?


『ともあれ、便利そうだな。ダンジョン内ではこれを使って連携していこう』

『あう……どうしてアタシ、あんなこと考えちゃったんだろう』


 なお、ヒーシャの思考は自爆だったようだった。

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