第97話

「それで……具体的にはどうするの?」

「大目標は簡単だ。ふたりとも、俺と一緒にレベル40を目指そう」

「れ、レベル40……」


 ヒーシャが息を呑み、ナフも一つ大きな息を吐いた。

 若干、二人の緊張が強まる中、ナフがまず口を開く。


「それ、具体的にどのくらい?」

「実際に効率がどの程度かを見てみないことには何とも言えないが……」


 一日で500経験値を稼ぐことが最終的な目標だ。

 治療院稼ぎと同じか、それを越えれば十分。

 とすれば、レベル40までは必要経験値がほぼ一定なので――


「まぁ、だいたい三ヶ月前後かな」

「さんか……っ!? うそでしょ!?」


 うんまぁ、異常な数字だという自覚はある。

 それに、月二十日働くのは流石にこの世界の人には無茶だ。

 おそらくは実働はもうちょっとかかると思う。

 半年はかからないだろうけど。


「ナ、ナっちゃん。ツムラさん……本気だよ」

「で、でもさ! いくら何でも三ヶ月は無茶だよ!? 私達、一年かかってようやくレベル25だってのに!」


 二人は、やる気のある冒険者だ。

 一年で25というのは、本来なら優秀も優秀なレベルだろう。

 30までに三年だからな、二人なら二年で到達できると考えれば早い。


「と、とりあえずツムラさん……どうやって、そんなバカみたいな速度でレベルを稼ぐの? ヒーシャの“呪い”を使うって言ってたけど」

「そうだな……これは実戦した方が早いと思う」

「……無茶な方法じゃないんだよね?」


 無茶かどうか、か。

 ナフが警戒するのも解る。

 ヒーシャにとって、呪いは生まれた時から付き合ってきた枷。

 幼馴染のナフも、それを快く思ってはいないだろう。


 というか、実際に死にかけたからな、ナフは。

 ヒーシャに対する愛情が深いから、それを考えていないだけで。

 ナフはヒーシャを恨んでもおかしくはない。


「ある程度、危険な方法ではある。呪いを使う以上、魔物は湧いてくるからな」

「だったら……」

「けど、それ以上にやってみる価値はあると思う。何より、ヒーシャの呪いは発動した時が強烈だ。強くなっておいた方が、対処は楽になる」


 ようするに、これからも冒険者をしていくなら二人は早急に強くならなくてはならないのだ。

 この間のような状況がまた発生した時、今のままでは生き残れない。

 とはいえアレは、俺の愛子としての特性も絡んでくるから、常にああいった危機が頻発するということもないのだろうが。

 どちらにせよ、この方法で強くならず、普通に強くなっていくとしたら時間はとてつもなくかかる。

 リスクもそれだけ大きくなっていくわけだ。


「……なら」

「ナっちゃん」

「ヒーシャ?」

「……アタシ、やりたい」


 それをわかった上で、最後の逡巡をするナフ。

 背中を押したのは、ヒーシャだった。


「強くなれば、呪いに負けなくてすむ。お母さんを苦しめた呪いを、私は許せない。だから強くなりたい。……ダメかな?」

「……ああ、もう。仕方ないな!」


 話はまとまった。

 早速、ダンジョンに向かうとしよう。

 今日から、閉鎖も解けたことだしな。

 まぁ、それより先に行く場所があるんだけど。

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