第93話
「ヒーシャ、君は彼女の呪いを、“少しだけ”受け継いでいるといったよな?」
「あ、……はい」
あの後。
よろしく頼まれたヒーシャが顔を真っ赤にしたり、和やかに時間は過ぎた。
いい感じのところで話を切り上げて、ヒーシャの母親は眠りにつく。
夕飯をご一緒してほしいと頼まれたが、流石にそこまで居座るわけには行くまい。
俺は、家の入口でヒーシャと話をしていた。
扉の向こうから、妹達が話を盗み聞きしようとしているのが解る。
ヒーシャは必死に扉を押さえつけて妹たちが出てこないようにしていた。
シュールだ。
「それは、具体的にどれくらいだ?」
「えっと……日常生活は何も問題は有りません。アタシ自身は、健康体です」
「だとすると……受け継いでいるのは、魔物を引き寄せるほうか?」
――推測は、当たっているようだ。
ヒーシャは、少し申し訳無さそうにうなずいた。
「でも、街に魔物が押し寄せてくるとかは、ないですよ? 下の子含めてうちは大家族ですけど、生まれてこれまで魔物が街に大挙してきたことはないですし」
「とすると具体的に効果があるのは……魔物が出現しやすい場所」
「……!」
「ダンジョンの中とかだな?」
思い返せば。
俺がヒーシャと出会った時、彼女は命の危機に瀕していた。
ダイヤモンドオーガも、彼女の前に出現したという。
聞くと、更新日にダンジョンにいて、ダンジョンハザードが発生したのはアレが初めてだという。
だとすれば、ヒーシャの呪いが魔物の出現を誘発することはないだろう。
ヒーシャの呪いは、魔物を彼女の側に出現させる呪いだ。
「……ツムラさんには、ご迷惑をおかけしました」
「いや、それに関しては俺はありがたいと思ってるから、いいんだ」
「…………え?」
なんか、理解できないという顔をされた。
ともあれ。
「ヒーシャ、君は母親の呪いをどうやって解呪するつもりなんだ?」
「――この街のダンジョンのボスが、呪いを解呪するアイテムをドロップするそうなんです」
ダンジョンのボス。
よくあるやつだ。
「でも、ダンジョンのボスがアイテムをドロップするのは、一度だけ」
曰く、呪いを解呪するアイテムのドロップ率は、天文学的な数字だという。
少なくともヒーシャが生きている間に、ボスがそれをドロップしたという話を聞いたことがないほどに。
加えて、一度ボスを倒したら同じ冒険者がボスを倒してもドロップが発生しない仕組み。
「君の父親は……ドロップしなかったんだな」
「はい」
父親の経歴を考えれば、ボスを討伐していないはずがない。
とすれば、彼は空振りだったんだろう。
そして、だからこそヒーシャもワンチャンにかけて冒険者をしている、と。
「なら、提案なんだが――」
「……ツムラさん? あの、アタシは」
ヒーシャは、俺の言葉を遮ろうとしていた。
責任感が強いんだろう、もしくは、一人で抱え込みがち。
ナフがいなければ、ヒーシャは一人でダンジョンに挑み――死んでいた。
だとしても、ヒーシャは俺の言葉を遮ろうとしている。
どう考えてもこの場で提案するのは、ヒーシャを助けるための提案だ。
それを、断ろうとしている。
責任感が強すぎるよな。
ああ、だから俺は――
「――パワーレベリングをしてみないか?」
「ツムラさんに、これ以上助けを…………え?」
――その背中を、押したいと思ったんだ。
なお、今度こそヒーシャは何を言っているか解らない様子で首をかしげていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます