第92話

「初めまして、俺はツムラ。冒険者で……」


 少し考える。

 ヒーシャの母親は、こちらを警戒している様子はない。

 だが、普通に考えて俺は怪しい。

 なので、


「妖精の愛子だ」

「まぁ」


 俺の肩書の中で、一番説明しやすい肩書を名乗る。

 その言葉と同時に、揺り籠の中からクロがでてきて、軽く会釈した。


「愛子……だなんて、初めて、あった……わ」

「まぁ、そうだよな」


 んで、かいつまんでヒーシャとのことを話す。

 ダイヤモンドオーガの件を、簡単に。

 もとより、ヒーシャに詳細は聞いているだろうしな。


「……ヒーシャと、ナフちゃんを……助けて、くれて……ありがとうね」

「いえ」


 俺にもメリットがあることだったからな。

 経験値とか、経験値とか、経験値とか。


「お母さん、飲み物取ってきたよ」


 母親が目を覚まして、飲み物を取りに行っていたヒーシャが戻ってくる。

 それから、俺達は三人で話をした。

 クロはまた揺り籠の中に戻っていった。


「じゃあ、ヒーシャの父親は冒険者なのか」

「はい。レベル40超えの優秀な冒険者でした。今は……どこにいるか解らないんですけど」

「生きてるわ……きっと。あの人は、そういう人……だから」


 なるほど、消息不明だけど死んだとも言われていない。

 生きている可能性はそれなりにあるだろう。

 とはいえ今のヒーシャ達は、父親の置いていった冒険の成果で暮らしている、と。


「あの人は、私の呪いを……治すために、冒険者になったのよ? ふふ、変な人、よね」


 どうやら、よっぽどヒーシャのご両親はアツアツなようだ。

 まぁ、こんな巫山戯た呪いを抱えて、これだけ子沢山な時点でそこは察せられるけど。

 いや、一日眠れば体調が回復するこの世界の仕様は、ある程度出産の負担を軽減できるのか?


「ヒーシャも、あなたを治すために冒険者になった」

「ええ……無茶は、しないでほしいのに」

「でもお母さん……アタシ達の中で、冒険者になれるスキルを持ってるの、アタシだけなんだよ?」


 他の子は、冒険者に向かないスキルを覚えていっている。

 なら、冒険者になれるのはヒーシャだけ。

 ……なんとなく、それなら冒険者を目指すのが、ヒーシャだなと感じてしまった。


「でも、私の呪いは……あなたにもほんの少しだけど、遺伝してる、のよ?」

「それでも……挑戦はしたいから」


 ――ふむ。

 その言葉に、俺は少し考える。


「あの……ツムラさん」

「なんでしょう」


 色々なことを考えているうちに、ヒーシャとその母親は、こちらを見ていた。

 三人で話をしているのに、一人黙ってしまえばそうなるよな。

 とはいえ、話もちょうどいい頃合いだった。

 切り上げるにはいいタイミングだと二人も思ったのだろう。


 そして、


「……ヒーシャ、を。よろしく、お願いします」


 ヒーシャの母親は、俺にそういった。

 その言葉で、


「ええ」


 俺の考えは、まとまった。

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