第89話
うれし恥ずかし、レベッカさんとの読書タイムを乗り越えて。
今、俺は街を適当にぶらついている。
彼女との話は実り多いものだったが、それはそれとして緊張感のあるものだった。
いや、悪いとは言わないんだけど。
レベッカさんは美人だし、知的好奇心を同じくする同士ではあるのだけど。
今度は、人のいないところで話し合いたいなー、なんておもったりもした。
『ツムラ、大胆』
『そういう意味じゃないって』
ともあれ。
せっかく読書にモチベーションが湧いているのだし、なにかほんの一冊でも買って読もうかと思い立った。
なので、この街の本屋に向かっているわけだが。
「――あれ、ツムラさん?」
不意に声をかけられた。
振り返ると、そこにはヒーシャがいる。
「ヒーシャ? 偶然だな。……買い物中か?」
「あ、はい、こんにちわ。今はちょっと今日の夕飯の買い出しをしているところ、です」
いつものローブ姿ではない、町娘らしい落ち着いた格好。
まさか、今の彼女を冒険者であると思うものはいないだろう。
手には何やら買い物袋を抱えていて、中身はパンパンだ。
「夕飯にしては多くないか?」
「兄弟が多いので……私が長女なんですけど」
「そりゃあ大変だな……そうだ、ヒーシャの家って、どの辺りだ?」
「え!? あ、え、あ、アタシの家ですか!?!?!?!?」
いや、驚きすぎだろ。
落ち着け落ち着け。
しばらくすると、何とかヒーシャが落ち着いた。
「ええっと、このさきを曲がって……」
「……それなら、荷物は俺が持っていくよ」
「え?」
俺の目的地と、ヒーシャの家は近かった。
目的地が同じなら、荷物は俺が持って負担を軽くしてもいいだろう。
これも
『心の声が、ダダ漏れている……』
『うるさいうるさい、善行には変わりないだろ』
クロのヤジを適当に流す。
それはそれとして、ヒーシャは未だに混乱していた。
「え、いえ、でも、その、あの、悪いですし、えっと、あの」
「落ち着きなって、こっちにはこっちのメリットがあるんだ。目的地が近くの本屋だからな」
「はぁ……」
そういえば、俺はヒーシャとナフにレベリング中毒のことを話したっけ?
レベッカさんは、すでに周知だけれども。
「じゃ、じゃあ……お願いします」
「ああ、承った」
というわけで、世間話をしながらヒーシャの家に向かう。
内容は、本当に益体もない世間話だ。
ただ、なんとなく思うのは、ヒーシャも随分と俺との会話に慣れてきたなということ。
コミュ障に理解のあるオタクであるところの俺は、ヒーシャが俺に人見知りを発揮していることは理解している。
その上で、今はヒーシャの方からも話題を降ってきてくれる。
これは進歩だ。
俺はそれをよく知っている。
「つ、つきました」
「ああ」
何やら緊張した様子のヒーシャに、ここまで持ってきた荷物を返す。
さて、後は適当に挨拶をして別れるだけ、というところで――
「ヒーシャ姉が男を連れてきた!!」
――なんか、お約束のイベントが始まるようだった。
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