第79話

「ん、おはよ……」


 クロが目を覚ましたのは、もう日もすっかり沈んだ後のことだった。

 なんか、心配になるくらいよく眠っていたな。

 揺り籠を使いすぎた反動とかじゃないよな。


「おはようクロ、もう夜だけどな」

「―――――――――え?」


 あ、この反応は普通に寝過ごしたやつだ。

 休日に寝すぎて、気がついたら夜になってたやつだ。


「……揺り籠、危険」

「そんなにか……」


 逆にいえば、昨日の疲れは仕事で一日みっちり働いたくらいの疲れになるのかもしれない。

 それで寿命を縮めているみたいなデメリットが揺り籠にあったとしたら。

 ……つまり現代の仕事は寿命を縮めている?

 やめやめ! この話は考えないことにしよう。


 いや、そもそもこの世界だと朝起きると疲れがリセットされる。

 やっぱ寝過ごしただけだな。


「ナフ達は?」

「終わったよ、無事に治療できた」

「よかった」


 いいながら、ちょこんとクロは妖精状態のまま、俺の隣に座る。

 今、俺はベッドでこれから寝るつもりでいたから、二人並んでベッドに座り込む感じになった。


「……ツムラも、無事で良かった」

「俺も?」

「ダイヤモンドオーガとの戦い。ツムラとヒーシャ、すごく危険」


 そっちの話か。

 そういえば、昨日は宿にもどったらさっさと寝たから、ダイヤモンドオーガの話もまだクロとしていなかった。


「俺が戦えたのは、クロのおかげだよ」

「私の?」

「ああ。クロの力がなければ、そもそもダイヤモンドオーガと戦えなかったし……クロの言葉で、俺は戦い方を決めた」


 この世界に来てから、あらゆることに俺はクロありきで臨んでいる。

 レベリングだって、人助けだって。

 異世界で生きていくということにも、クロの力は必要不可欠だ。


「俺は結局、レベリング中毒なんだよ」

「そうだね」

「だから、あらゆる行動の起因にレベリングが絡む。というよりも、


 誰かのためとか、強くなるためとか。

 事件を解決するためとか、レベルを上げるためとか。


 そういう様々な行動が、俺に経験値を与えてくれる。


「でも、それにしたってレベリングだけをしていればいいってもんでもないだろ?」


 最初、森の中で一人レベリングに明け暮れていた生活と。

 今の、レベリングをしながらも人と関わったり、検証のために遠回りをする生活。

 どっちがいいかは、正直俺にはよくわからない。


 だって、普通に生活するだけでも、経験値は手に入るからだ。

 だったら、一般的に快適な生活を遅れるのは、後者の方だろ?

 でもそれを維持するためには、相応のコストが必要で。

 それなら前者の生活も、普通にありだ。


 俺には、選べるものじゃないとおもう。


「そんな時クロがいてくれたら、この世界の常識とか知恵で、俺に判断基準を与えてくれる」

「……妖精は、愛子を導くものだから」

「そうだな。おかげで、俺は今ここにいる」


 クロは、感情を顔に出さない。

 でも、決して感情表現が乏しいわけではない。

 口数が少ないだけで、言葉少なにしているタイプではない。


 今だって、俺の言葉を聞いて少し気恥ずかしそうにしている気がする。

 俺がうぬぼれじゃなければ、だけど。


「だから……これからもよろしくな、クロ」

「――うん、ツムラ」


 故に、そうやってお互いの言葉を口にして。

 きちんと意思を確かめあって。

 俺達は、これからも妖精とその愛子を、続けていくんだ。


「――俺、レベリング頑張るから」

「うん、がんばって」


 そしてレベリングの話になると、一気になんか遠い目をするのであった。

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