第78話
ヒーシャはギルドに戻ったらしい。
レベッカさんにナフの無事を伝えなくてはならない。
後は、いくら親友とはいえ、自分の命を救ってしまった相手と話をするのは緊張するのだろう。
心の準備……という名目で時間稼ぎをしているに違いない。
気持ちはわかる。
ともあれ、二人がそこにいるなら俺も顔を出すべきだろう。
なんて考えつつギルドに行くと、ギルドの入り口側の道で二人が話をしていた。
ローブ姿のヒーシャと、私服姿のレベッカさんだ。
どうやら仕事中ではないらしい。
「ツムラさん、この度は本当にありがとうございました」
「ああ、できることをしたまでだよ、レベッカさん」
二人はこちらに気付いて、手を降ってくれた。
ヒーシャはなんかぎこちないけど、彼女の場合多分ナフ相手にもこんな感じだろう。
「ツ、ツムラしゃん!」
「落ち着いてくれ、ヒーシャ」
めっちゃ声が上ずっている。
「本日はまことにありがひょうございまひた!」
「本当に落ち着いてくれ!」
慌て過ぎである。
顔を真っ赤にして、ヒーシャはレベッカさんの後ろに隠れてしまった。
「あ、アタシ……なんてお礼をすればいいか……わかんなくって……」
「お礼なら十分貰っただろ。サーチハンドを店主から譲り受けてきてくれたのは、ヒーシャだ」
「そ、それは……でもぉ……」
「何より、ヒーシャが俺の背にひっついてくれてなければ、俺はオーガに勝てなかったよ」
後はまぁ、存在感とか……存在感とか。
お礼っていうなら、それで十分だ。
まぁ、存在感のことは口に出すと最低なので、何も言わないけど。
「はひぃ……つ、ツムラさん。本当にありがとうございましたぁ……!」
深々と、九十度以上あるんじゃないかっていう角度のお辞儀だった。
「……それに?」
「はひ?」
それに、ヒーシャはなにか事情を抱えているようだ。
別にレベッカさんたちも俺にその事情を解決してほしいとはおもってないだろうし、ヒーシャなんてそもそも考えもしていないだろうが……
いつか、俺はそれに関わる気がする。
愛子としての直感が、俺にそう告げていた。
「……いや、なんでもない」
なので、首を横に振って言葉を呑み込んだ。
今、口にすることでもないだろうからな。
「そういえば、レベッカさんはどうして?」
「あ、はい。私、今日はもう上がっていいって言われてまして。これまで、ダンジョンハザードでずっと忙しくしてましたから」
なるほどな。
んで、ヒーシャと二人でいるってことは。
「そうだツムラさん。このあとヒーシャさんとお食事に行く予定なんです。ご一緒にどうですか?」
――って、ことなんだろう。
で、俺がなんて答えるかといえば……
「いや、遠慮しておくよ。俺がいても居心地が悪くなるだろうからな」
「そうですか……でも、今回はナフさんが無事に助かったお祝いみたいなものですし……」
「だったらナフを誘えばいい。呪いも完全に治ったし、今すぐにでも出歩いて大丈夫だぞ」
治癒魔法を使った俺が保証する。
ナフはもう大丈夫だ。
「そうですか……でも、いずれまた機会があったら、是非ご一緒してくださいね?」
「ああ、居心地が悪くないくらい、レベッカさんたちの空気に馴染んだらな」
女子の中に一人だけ交じる俺。
どう考えても話に入っていけない。
せめてクロがいてくれれば、そこから輪の中に入っていく目もあるのだが。
残念ながら、クロは未だ夢の中。
声をかけても、起きる気配すら見せなかった。
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