第77話

「ありがとう、ツムラ。助けてくれたのがアンタでよかったよ」


 ナフのその一言で、今回の件が終わったのだと俺はようやく実感できた。

 とにかく面倒ごとの多い事件だった。

 ダイヤモンドオーガなんて強敵、このレベルで相手するような魔物じゃないだろうに。

 勝てたことにも驚きだが、勝つためのアイテムが俺の手の中に手札として揃えられたことのほうが驚きだ。

 ある意味、これも妖精の愛子としての補正みたいなものか。


 そんなクロは、よっぽど揺り籠が寝心地いいのか、未だに中で眠っている。

 まぁ、ある意味でクロが今回一番の功労者だ。

 寝てもいいなら、寝ててもらおう。


「多分、これからもツムラとは顔を合わせる時があると思うから、その時はよろしく頼む」

「ああ、そうだな。よろしく、ナフ」

「お、おう……」


 名前で呼ばれるのが気恥ずかしいのか、頬を掻くナフ。

 あんまり変な空気になっても、外で待っている店主が怖い。

 用事が終わったのだから、俺は部屋から退散することにした。


「――終わったか」


 とか思いながら部屋を出て早々に、店主から声をかけられる。

 やましいことはなにもないのに、少し驚いてしまった。


「ああ」

「……本当に、なんとお礼を言ったら、いいものか」

「できることをしたまでだよ、それに……俺にだって、メリットはあることだ」


 経験値とか、経験値とか、経験値とかな!


「……サーチハンドか」

「それもあった」

「そいつは……俺の女房が作ったもんだ。遺作でもあったが……そうだな、おそらくそいつは、お前さんに使われたがってるだろう」


 奥さんの遺作。

 まぁ、なんとなくそんな気はしていた。

 ナフの性格は、店主の影響が色濃いとおもっていたからだ。

 何より、店主の態度もナフが大切な人の忘れ形見であり、たった一人の家族なのだと思えば納得がいく。


「大事に使わせてもらうよ。……こいつがアレば、俺は無敵だ」

「そいつは……大きく出たな」


 いや、誇張でも何でもなく。

 ATKを測れれば、揺り籠と合わせて俺が倒せる敵はぐっと増える。

 ATKがDEFを越えていないと、満足にダメージを与えられない世界だからこそ、間違いなくこいつは俺を無敵にしてくれるのだ。


「お前さんを初めてみた時、俺は間違いなくこいつは大成するとおもった。だが、お前さんはそもそも、最初からとんでもねぇ冒険者だったんだな」

「流石にそれは褒めすぎだけど……とにかく。ありがとう店主、俺が最初に武器を買ったのが、この店で良かった」


 縁、というやつだろう。

 不思議なめぐり合わせが、俺をここに導いたのだ。

 クロに手を惹かれ、この街を歩き。

 そして、この店にたどり着く。


 なるほど、妖精の愛子ってのは、まったくよくできた話だよな。

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