第68話

 ただATKがDEFを上回るだけじゃダメだ。

 効果的なタイミングでDEFをギリギリまでATKに変換して、ダメージを与えないと行けない。

 畜生、一発貰ったら乙る死にゲーかなにかかよ。


「す、すいません。バフの時間が短くて」

「いや、もらえるだけありがたいからな。しかし、そっちは腕大丈夫か?」

「は、はい。ずっとこの状態で捕まってられるだけのATKはありますので……」


 ステータスの恩恵はすごい。

 ともあれ。

 再びリキャストを待つ。

 だが、今回はリキャスト後すぐに使うのではなく、タイミングを見計らうことにした。


 ――ダメージを与えるなら、魔法でノックバックさせて、その隙に攻撃を叩き込むしかない。

 最初にバトルオーガを倒した時と同じ方法だ。

 そのためには、バフはノックバックさせたときに使うのが一番いい。


 一番の問題は、俺の度胸だ。

 この世界に来たばかりの頃は、恐怖とかそれどころじゃなかった。

 レベリングで強くなるのが楽しかったし、生活を安定させないと行けないという焦りもあった。

 恐怖なんて、感じてる暇もなかったのだ。


 クロを助けて、森を出て。

 初めて遭遇した人型魔物。

 あの時から、俺は根本的に人型の魔物に身の危険を晒すことができないでいる。


 ヒーシャの言葉に共感したのも、彼女の弱さは俺にもあるものだったからだ。

 だから今、俺はその弱さを捨てなきゃ行けないところまで来ている。


『……ツムラ?』

『どうした? クロ』


 リキャストを待ち、ダイヤモンドオーガの攻撃を避ける中。

 クロが俺の名を呼んだ。


『ツムラ、悩んでる』

『まぁな、情けない話だが、未だに人型の魔物相手にリスクを冒すのは苦手だ』

『ん、人には得手不得手がある』

『とはいえ、この不得手はどうにかしないとまずいだろう』


 リキャストが終わる。

 ここからは反撃の時間だ。

 だからこそ、距離を取る。

 ノックバックさせるとはいえ、DEFを著しく下げるわけだから、安全マージンとして距離は大事だ。


『――どうして?』

『ん?』

『ツムラの不得手、短所じゃない』

『いや、短所だろ。でなけりゃ……』


 クロがいい切った。


『今、こうして安全に距離を取っているのは、ツムラが人型、苦手だから。慎重だから』

『油断してないのはいい事だって、いいたいのか?』

『ん』


 ……なら、そうだな。

 苦手意識を克服できないなら、それを強みに戦えばいい。

 レベルが足りないなら、レベルを上げる。

 それでも勝てないなら、慎重に考える。

 どうやれば安全に倒せるか。


 それを考える慎重さが、俺の強み。

 その考えを実行するための強さが、レベル。

 レベリングは手段であり、モチベーション。


 クロは、そういいたいらしい。


『わかった、慎重に行こう。慎重に考えて、そして勝つ』

『うん』


 お互いの考えることが一致して。

 俺達は、行動を起こす。

 さぁ、反撃開始だ。


『これが終わったら、もっとレベルを上げないとな』

『……う、うん』


 なお。

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