第65話

 存在感がすごい。


「あ、あの……重たくないですか?」

「ステータスが高いおかげで、人一人なら重いと感じることはないぞ」


 それはそれとして、存在感がすごい。

 どこがって?

 正直言うに憚られる。

 セクハラだし、今はそんなタイミングじゃない。


 だが、だからといって意識しないわけにも行かない。

 戦闘が始まれば慣れる?

 それどころじゃなくなる?

 問題は今なんだよ!


『おちついて、ツムラ』

『クロ……他に選択肢があったのを、これが見たくて敢えて率先して提案したよな?』

『ぴーひょろ』


 そもそも、俺がヒーシャを背負う以外にも、対応する方法は色々とあったはずだ。

 だが、クロが最初に提案したこの方法がある程度丸かったせいで、他の選択肢は棄却されてしまった。

 クロが何やら巨乳にこだわりがあるのは、先日の会話からもわかっている。

 だから、この光景が見たくて提案をしたことは間違いない。

 俺の追求を誤魔化したのも、その証左だ。


 が、それはそれとしてクロは俺をどうしたいんだよ……

 というか、クロは何かしらの欲望からこういう提案をしたんだろうと解る。

 しかしレベッカさんはどうだ?

 あの人は、本当に何を考えているのかわからない。


 と、意識をそらしているうちに、俺達は地下二階に降り立った。

 ここからは作戦開始だ。

 押し付けられる存在感は相変わらずヤバイが、ここからはそこに意識を向けている余裕はなくなる。


「ま、まずはAGIに初級支援魔法でバフを入れて、ダイヤモンドオーガに遭遇したら中級のMAGに切り替える……でしたよね」

「ああ、とにかく敵を見つけないことには話にならんからな」


 というわけで、支援を受けて走り出す。

 俺の治癒魔法バフも再使用して、準備は万端だ。

 この五十分で……ケリをつける。


『ツムラ、目の前にバトルオーガ』

『解った。……今回は、こいつらを片付けながら進む』


 ヒーシャさんを背負いながらも、普段と変わらず俊敏に駆ける俺。

 眼の前にバトルオーガが現れた。

 これまでのこいつらは、倒しにくい面倒な敵。

 だが、今は違う。


「バトルオーガを排除するときは、ATKに支援を頼む」

「は、はいっ」


 ヒーシャにそう伝えて、一気に俺はバトルオーガへ突っ込む。

 向こうは、こちらを見て油断しているのか、はたまたそれが自然体なのか。

 躊躇うことなく突っ込んでくる。


 だが、


「もうお前らは敵じゃないんだよ!」


 俺は、それに拳を合わせる。

 結果――バトルオーガは俺の拳に負けて吹き飛ばされた。

 陽成の揺り籠と、サーチハンドのおかげで、俺のATKは今や270近い。

 半減されても、揺り籠を使っていない数値よりも高いわけで。

 そうなれば、通常のバトルオーガのDEFとの差は歴然だ。


 その後、何度か攻撃を加えてバトルオーガを倒す。

 経験値は激まずだが、ダイヤモンドオーガとの戦闘中に乱入されるのだけは避けたい。


「次!」


 俺は、道中のバトルオーガを倒しながらダイヤモンドオーガに向かって進み続けた。

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