第62話

 転移魔法陣を使って別の階層に移動すると、転移先は移動した階層のランダムなポイントになる。

 つまり、結果として何が起こるかというと――


「――――!!!」

「なんでダイヤモンドオーガの眼の前に転移するんだよ!」


 転移した俺の目の前に、ダイヤモンドオーガがいた。

 ふざけんなって話だ。


「……偶然」

「いくらなんでも……と思うが、まぁ偶然だよな、畜生!」


 オーガの迫る棍棒を避け、逃げる。

 あまりのことに、攻撃を受けてしまうところだった。

 別に受けてもダメージはないとはいえ、心臓に悪い。


「どうする?」

「このまま、ダイヤモンドオーガを引き連れて探索するしかないだろ」


 とはいえ、速度はこちらの方が早いので、そのうち振り切れるだろう。

 と、おもっていたのだが……


「ツムラ、この先、どこ行ってもバトルオーガ」

「マジかよ……」


 先程逃走した時は、運良くバトルオーガに道を阻まれなかったのだが。

 まぁ、うまく行かない時というのは、何をやってもうまく行かないものだ。

 諦めて、突っ込もう。


「大丈夫?」

「問題ない、どっちの攻撃もダメージはないしな。それに――」

「それに?」

「バトルオーガ……利用できないこともないだろう」


 いいながら、通路を左に曲がって進む。

 バトルオーガはすぐ側にいた。

 対して俺は、そこにまっすぐ突っ込んでいく。


「……ええい、度胸!」


 棍棒を構える人型魔物に、真正面から突っ込むのは度胸がいる。

 けれど、ためらっている時間はない。

 迫る棍棒へ、俺は拳で棍棒を掴んだ。


「!!」


 そのまま、引っ張る。

 勢いよく数歩、バトルオーガはたたらを踏んで――そこに、棍棒を構えながら突っ込んできたダイヤモンドオーガが迫る!


「同士討ちだ!」


 いいながら、俺はそのまま走る。

 後ろがどうなったかは確認しない。

 だが、どちらにせよこれで時間は稼げるだろう。


「このまま進むぞ」

「まって、ツムラ」

「どうした?」


 その場を勢いよく駆け出そうとした俺を、クロが引き止める。

 何故か? クロが指差す方向に目を向けて、すぐに理解した。



「――あった、宝箱」



 豪華な装飾の――最高レア宝箱だった。


「っと、よし!」


 慌てて方向転換、宝箱に向かっていく。


「ダイヤモンドオーガ来てる、気をつけて」


 クロの警告。

 だが、問題ない。

 数秒もせず、俺は宝箱のもとにたどり着いた。


「最悪、妖精の揺り籠でなくてもいい。ダイヤモンドオーガをどうにかするための、アイテムをくれ!」


 ――遠くから、雄叫びが聞こえる。

 オーガが迫っている。

 今、俺の心臓を高鳴らせているのは果たして、宝箱を開ける興奮か、オーガが迫る恐怖か。


 祈りを込めて開けた宝箱には――


 『妖精の揺り籠』

 種別:レアドロップ

 効果:妖精が揺り籠の中にいる時、DEFとMIDを1下げることで、ATKとMAGを2上げる。DEFとMIDは最低1まで下げることができる。


 ――逆転の切り札が、収められていた。

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