第61話
「……ナっちゃんとアタシは、幼馴染で……アタシが冒険者になるって言った時に、一緒に冒険者になるって言ってくれたんです」
「ドワーフ工房の店主さんは、ナフさんに工房を継いでほしかったそうなのですが。ナフさんは無理を言って冒険者になったんですよ」
ナっちゃん……ナフというらしいドワーフの少女は、ヒーシャにとって重要な存在であるようだ。
実際、俺が知る限りでも二度、ヒーシャはナフに生命を救われている。
片方は俺がなんとかしてしまったが。
あのまま放っておけば、間違いなくナフは自分を囮にヒーシャを逃しただろう。
「なら、決まりだな。レベッカさん、ヒーシャ。悪いけどそっちは頼むぞ」
「解りました。ツムラさんもお気をつけて」
ああ、と頷く。
最後にクロと視線を合わせ――
「……行こう」
「解ってるさ」
再びクロがフードに戻るのを確認してから、俺はダンジョンへと戻っていった。
「良かったのか? あの二人に正体を明かして」
「問題ない。私、人を見る目、あるつもり」
「まぁ、あの二人に関しては俺も問題ないと思うけどさ」
それはそれとして、聞かずにはいられなかった。
ダンジョンに入ってしばらく立っていたため、治癒魔法バフをかけ直して、道を急ぐ。
今、俺達は一階にいる。
一階から順番に、ローラー作戦で宝箱を探すのだ。
レベッカさんは二時間捜索したら、見つかっても見つからなくても戻ってくるといった。
ヒーシャは、そこまで時間はかからないだろう。
サーチハンドを借り受けたら、そのままギルドに向かってレベッカを手伝うかもしれない。
どちらにせよ、俺達はその間、ダンジョンを巡って宝箱を探す必要がある。
「次の角、右」
「ああ」
バトルオーガを避けながら、道を進む。
仮に出くわしてしまったら、MPを使わずに退ける。
倒す必要はない。
今は、少しでもダンジョンを巡るのだ。
――急いでいるからか、俺もクロも言葉数が少ない。
ただ、淡々と行き先を告げるクロと、それに従う俺。
奇妙な沈黙だった。
普段は、もう少し会話は多いはずだが。
不意に、思いついてクロに問いかける。
「なぁ、クロ」
「何?」
「……緊張してるのか?」
俺は別に、自分から話を振るタイプではない。
だから普段は、クロの方から色々と話しかけてくることが多いのだが。
そうではないなら、もしやとおもったのだ。
「…………うん」
「妖精の姿で、人前に出るのは初めてだった……とか?」
「……うん」
なるほどね、それでか。
「俺と話をする時は、全然緊張してないのに。不思議なもんだな」
「それは……ツムラが、ツムラだから」
「褒め言葉として、受け取っておくよ」
ふぅ、と一息。
結局、一階に最高レア宝箱はなかった。
次は地下二階、ダイヤモンドオーガがいる。
気を引き締めていこう。
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