第59話

「……妖精の揺り籠、ですか」

「えっと、レベッカさん……それって?」

「そうですね……少し特殊なレアアイテムなのですが」


 俺がその名前を出すと、レベッカさんは少し考え込みながら話してくれた。


「……ダイヤモンドオーガを討伐するためのアイテムとしては、入手事態はおそらく最も容易だと思います」

「今、ギルドとかに現物はあるのか?」

「ニシヨツのダンジョンで、最高レアの宝箱から入手可能なんです……ギルドに在庫があるかは、探してみないとわかりません」


 つまり、ギルドになくとも、ダンジョンで見つけられる可能性があるわけだ。

 先日ダンジョンが更新された後、ダンジョンハザードのせいでダンジョンを探索した冒険者はいない。


「効果は……ステータスの変換です」

「変換?」

「はい、DEFとATKに、もしくはMIDをMAGに変換します」

「……なるほど、それなら俺の防御ステータスを攻撃ステータスに変換すれば、ダイヤモンドオーガの装甲を抜けるかもしれない」


 理屈としては非常に単純だった。

 とはいえ、リスクの多いアイテムだ。


「難点は……やっぱり防御を下げることで、ダイヤモンドオーガの攻撃が脅威になること、です……よね?」

「はい、ヒーシャさん。ツムラさんの防御ステータスは三桁あるのですが、それを減らしてしまうと、ツムラさんは非常に危険です」

「さ、三桁……」

「HPが三桁しかないからな」

「三桁!?」


 三桁でヒーシャは驚きすぎである。

 ともあれ、俺のHPはほとんどあってないようなもの。

 ダメージを受けることがないからいいものの、ダメージを受ける状況で戦闘するのは危険すぎる。


 っていうか、ぶっちゃけ怖い。


「せめて、ダイヤモンドオーガのATKを測ったりできれば、安全に戦えるんだろうが」

「……ATKを測る」


 サーチハンドとかな。

 でもあれは二十万もする高級品。

 いくらダイヤモンドオーガの討伐が大事だからって、貸し出したりはしてくれないだろう。

 俺がそういう意味も込めてつぶやくと、ヒーシャは何やら考え込んでしまった。


 レベッカさんが、話を続ける。


「加えて、一番の問題は妖精の揺り籠の使用条件です」

「使用条件?」

んです」

「……!」


 曰く、妖精の揺り籠とは、ただアイテムがあるだけではダメなのだそうだ。

 妖精という特殊な存在の力を借りて、普通ではありえない効果をもたらすアイテム。

 それが妖精の揺り籠。


「妖精の揺り籠はペンダントの形をしたアイテムなのですが、妖精をその中に“収める”ことで効果を発揮します」

「それって……妖精を捕まえるってことか?」

「いいえ、揺り籠の中は妖精にとって非常に快適な場所だそうですから、妖精に中に入ってもらう形になるかと」

「ああ、それで揺り籠」


 ――何にせよ。

 妖精がいなければ、そのアイテムは使えない。

 その条件なら、ギルドを探せば妖精の入ってない揺り籠は死蔵されていそうだ。

 つまり。


「――クロ」

「うん」

「……いいのか?」


 妖精が、いればいいのだ。


「……彼女たち、信頼できる人間。私は、そう考える」

「なら……」


 小声で言葉を交わす俺に、レベッカさんが首を傾げる。

 その疑問に答えを提示するように、俺は――


「出てきてくれ……クロ」

「わかった」


 揺り籠の鍵となる存在、妖精――クロを、フードの中から呼び出した。

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