第58話

「……アタシ、がわるい、んです」


 ヒーシャさんが、崩れ落ちる。

 ぽつりとこぼれ落ちた悔恨が、涙と共に地に滴って落ちる。


「アタシが、更新日に、ダンジョンに行こうって言わなかったら……」

「……」

「ダイヤモンドオーガに出くわした時に、怖くて動けなかったアタシを……ナっちゃんが庇ってくれて……それで……」


 ――怖くて、動けなかった、か。

 その言葉に、俺は少しだけ迷う。

 声をかけるべきだ。

 今は、嘆くよりも行動すべきだ、と。


 でも、俺は彼女の言葉に、少しだけ同意してしまった。

 確かにそうだよな。

 ダイヤモンドオーガは、怖い。


「……君は、何も間違ってない」

「え……?」

「ヒーシャさんが怖くて動けないのは、当然のことだ。誰だって、あんな怪物の相手正面からできない」


 俺は、ふとそう言葉にしていた。


「でも、ツムラさんって……レベッカさんが行ってた……すごい冒険者、なんですよね?」

「……俺にだって、苦手なものくらいある。恥ずかしながら、人型の魔物を相手にするのが苦手でな」

「えっ?」


 ――レベッカさん、そこで首をかしげないで。

 変なものを見る目でみないで!

 今、真面目な話してるから!


「それでも、今はやるしかない。ヒーシャさんも解ってるんだろ?」

「あ、あの……ヒーシャでいいです」

「……なら、ヒーシャ」


 俺は、視線を合わせる。


「ヒーシャがここに来てるってことは、できることをするためだ」

「……!」

「そのために、力を貸してくれないか?」

「で、でも……」


 レベッカさんの方を一瞥して――


「……貸してほしい力は、知恵だ。ダイヤモンドオーガは、バトルオーガよりも強固な装甲を有しているみたいなんだ」

「強固な装甲……ツムラさんの攻撃ステータスでも、ダメージを通せないくらいの?」

「そうだ」


 先程起こったことを説明する。

 二人の顔は、俺の説明を聞く度に翳っていく。

 想像以上に、ダイヤモンドオーガは厄介な敵だ。


「……そんな魔物、この国の冒険者で倒せる人間がいるかどうか」

「それほどか……」


 おもっていた以上に、厄介だった。

 とはいえ、この場にいる人間は、俺が早急にダイヤモンドオーガを討伐しなくてはならない事情をしっている。

 どころか、当事者だ。

 だから、言わずとも俺がしなくてはならないことを理解している。


「……ダイヤモンドオーガの装甲を抜ける方法を、手に入れる手段はないか」

「そうですね……ないわけではないです」


 ないわけではない。

 広い世界を見渡せば、片手で数え足りないくらいには、この状況で有効な手段があるのだろう。

 ただ、それが今この場にあるかといえば……


「――一つ」


 声が、聞こえた。

 それは、ヒーシャでも、レベッカさんでもない。


「……クロ?」

「“妖精の揺り籠”」


 クロが、俺に語りかけるのだ。


「この場で、最も存在する可能性の高い、レアアイテム」

「……それって」

「前、探してた。市場で私が……見つからなかったけど」


 なるほど。

 まずは、それを彼女たちに聞いてみることにしよう。

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