第57話
「お願いです、レベッカさん! 行かせてください!」
「ダメです! いくらヒーシャさんでも! お気持ちはわかりますが、危険すぎます!」
入り口にある転移魔法陣に戻ると、何やら騒がしかった。
誰かが誰かを押し留めているようだ。
一人は……レベッカさん。
もうひとりは……誰だろう、少し見覚えがあるが。
「レベッカさん、何があったんですか?」
「ツムラさん! ご無事だったんですね!?」
レベッカさんが、女の子を押し留めていた。
年の頃は十代半ば程度だろうか。
ゆったりとしたローブの、金髪少女。
長髪を三つ編みにしている、大人しそうな顔立ちの少女だった。
他に特徴的なのは……
「……ごくり、でかい」
「クロ……?」
「なんでもない」
なんでクロが息を呑んだ?
まぁ、クロが指摘したからぶっちゃけると、めちゃくちゃ胸がデカかった。
すごいゆったりとしたローブで存在感があるって何事だ。
が、今はそんなことを言っている場合ではない。
その少女が、すごい形相でレベッカさんを押しのけてダンジョンに行こうとしているのだから。
「レベッカさん、アタシどうしても……!」
「落ち着いてください! ツムラさんが戻ってきたので報告を聞きましょう!」
「……ツムラ、さん?」
どうやら、そこでようやく俺の存在に気がついたようだ。
今にも泣き出しそうな顔でこちらを見る。
「あっ、え、あ、その……えっと、ご、ごめんなさい。あ、アタシ……」
「レベッカさん、この子は?」
「……ヒーシャさん。例の、呪われた冒険者のパーティメンバーです」
なるほど。
そういうことなら、なんとなく状況は把握できる。
呪われた仲間のためにダイヤモンドオーガを討伐し、呪いを解くためのアイテムを手に入れようとしているわけだ。
「え、あ、あなたは……」
「?」
「ま、前に邪ノシシから、アタシとナっちゃんを助けてくれた……」
「……ああ、あの時の」
見覚えがあるとおもったら。
そうか、あの時の二人の少女の一人か。
言われてみれば、彼女をもう一人の少女がヒーシャと呼んでいた気がする。
とはいえ、人助けはアレ以外にもやっていたので……邪ノシシと言ってくれなかったら思い出せなかったな。
ともかく。
「……お、おねがいです! ナっちゃんを、ナっちゃんを助けてほしいんです!」
「落ち着いてください、ヒーシャさん。ツムラさんは現在、ダイヤモンドオーガの討伐を請け負っている最中なんです」
「じゃ、じゃあ……!」
ヒーシャさんは、俺をすがるような目で見てくる。
それだけ、ナっちゃんという冒険者のことをおもっているのだろう。
だから、正直心苦しいが、俺は事実を報告しないといけない。
「ダイヤモンドオーガの討伐は……現状うまく行っていない。あいつの装甲を、俺が越えられないんだ」
空気が、シンと静まり返る。
……重い。
あまりに、重い沈黙だった。
「そん、な……」
「……ツムラさんの攻撃ステータスで、防御を抜けない?」
レベッカさんの言葉が、
「そんなの……一体誰がダイヤモンドオーガを、倒せるんですか……?」
無常にも、ダンジョンに響き渡った。
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