第55話
開幕一番、俺は白熱針の火魔法を展開すると同時に、勢いよくダイヤモンドオーガに飛びかかる。
先手必勝というのもあるが、相手の動きを見てから動こうとすると躊躇いが出てしまう。
これまでさんざん人型と相手をしてきて、自分の苦手意識はそう簡単に変えられるものではないと解っている。
だったら、少しでもそれを緩和するためには、とにかく俺自信が苦手意識を抱く前に攻撃するしかない。
そう考えて、俺は全力で飛びかかったのだが――
気がついたら、俺の身体は宙を待っていた。
「――は?」
「……っ、ぁ! ツムラ!」
俺の情けない声と、クロの俺を呼ぶ叫び声。
何が起こったのかわからないまま、勢いよく後方へと吹っ飛び、二、三回はねながら地面を転がった。
――痛みは、ない。
まるで自分の体がゴム毬になってしまったかのような。
吹き飛んでいるということはわかったが、衝撃も、ダメージと呼べるダメージもなかった。
「な、にが……」
正直、肉体的には問題なくそのまま復帰できる。
だが、精神的に混乱の極みに陥ったまま、俺は目を瞬かせていた。
「逃げて! ツムラ!」
「……っ!」
聞こえてきたクロの叫び声にハッとなって、横に飛ぶ。
俺がいた場所に、ダイヤモンドオーガが棍棒を叩きつけていた。
「……っ! ステータスオープン!」
こんな状況で何を悠長な、という話ではあるが。
確認せずにはいられなかった。
今の状況を納得するためには。
NAME:ツムラ
LV:24
EXP:10010(NEXT:1990)
HP:130/130
MP:125/125
ATK:120+5+10
DEF:120+5
MAG:120+3
MID:120+3
AGI:120+10
SKILL:『ステータス上昇均一化』『火魔法:初級』『治癒魔法:初級』『水魔法:初級』『アイテムボックス』
HPは減っていない。
理解する、先程起きた一連のやり取りを。
「ツムラ、ダイヤモンドオーガに攻撃した」
「……拳と火魔法を叩き込んだんだよな。そして――向こうは効いてなかった」
「それから、反撃。……ダイヤモンドオーガ」
クロと二人で、起きたことを振り返る。
お互いの攻撃がお互いの装甲を貫けなかったのだ。
あまりにも、単純なこと。
「クロ、大丈夫か?」
「平気、妖精、落下に強い。ふっとばされても、ダメージ入らない」
初めて聞いたが、まぁ空を飛んでるときに何かって地面に落ちて死なないようなスキルがあるんだろう。
俺のフードに入っている限り、直撃を受けることはそうないだろうから、それなら安心か。
とはいえ、問題は――
「なんだあいつの、装甲」
「……わからない」
クロですら、理解できないことのようだ。
明らかにおかしい、ただでさえオーガは防御ステータスが高いが、だからといって半減にしても俺の攻撃系ステータスを越えられるとは思えない。
ただでさえ拳に関しては、バフも入ってるんだぞ?
「まさか……半減じゃない?」
「え?」
そこまで考えて、ふと気付いた。
バトルオーガは攻撃ステータスを半減する装甲を持っているが、その上位種であるダイヤモンドオーガが、同じ装甲を持っているとは限らない。
上位互換でも、おかしくはない。
「おいおい、どうすんだよこれ」
結果、一つだけ言えること。
――詰んでいる。
ダメージを与える手段がない。
ただし、お互いに。
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