第54話

 すでに、一日の休憩は取った。

 MPは完調、もはや何の憂いもない。


「……やろう、ツムラ」

「ああ」


 クロもいつも通りフードに収まって、俺はダンジョンにやってきていた。

 今いるのは上層の二階。

 呪いの被害を受けた冒険者は、二階でダイヤモンドオーガに出くわしたらしい。

 それは、俺がダイヤモンドオーガに出くわして無いわけだ。

 俺が救助を行ったのは、三階の途中までだったからな。


「ここにいると思うか?」

「入り口、冒険者たち、死守してる。突破まで、核動かない」

「なるほどね」


 現在、ダンジョンの入口は、外に出ていこうとするバトルオーガと、それを押し止める冒険者達が激しい戦闘を繰り広げていた。

 戦況はそこまで冒険者側の不利ではない。

 ダメージを与えられなくとも、足止めはできる。

 そして出入り口が一つしかない以上、流石にバトルオーガといえども、外へ出るのは容易ではないのだ。

 他所からバトルオーガを倒せる救援が来るまで、問題なく防衛することは可能だろう。


 だが、何にせよ今は急いでボスを倒さなくてはならない。


「バトルオーガ、いっぱい」

「うじゃうじゃいるな……全部倒してたら、時間がいくらあっても足りないぞ」


 アレで、経験値がもう少し美味しければいくらでも狩りができたんだけどなぁ。

 だが、そうではない以上アレは無視するしかない。

 急いでダイヤモンドオーガを探すとしよう。


「……癒やしを、力に変える」


 治癒魔法バフを起動し、準備は完了だ。

 可能なら、このバフが切れるまでには決着を付けたい。

 俺はダンジョンへ向けて駆け出した。


「――バトルオーガ、右から!」

「わかった」


 こういう時、頼りになるのはクロの探知能力。

 こちらに迫ってくるオーガを避けて、できるだけ接敵しないルートで進む。

 といっても、今この階層は昨日更新されたばかり。

 地図もなにもないから、正直俺は道に全力で迷っていた。


「行き止まりか」


 当然、行き止まりにぶち当たることもある。

 するとバトルオーガが俺に追いついてしまう。


「ツムラ」

「解ってる。――火よ」


 だが、問題はない。

 俺は鋭い針のような炎を生み出すと、バトルオーガに向けて放つ。

 バトルオーガは、いくら強そうな雰囲気をまとっていても、知性は他の魔物とそう変わらない。

 連携ができないし、学習能力も低い。

 だから、相手の弱点を突くこの火魔法は、常に有効打として働く。


「――!」


 火の針がオーガの目を貫く。

 大きくのけぞり、オーガが怯んだ。

 俺はその横をすり抜ける。

 今はなった火魔法に使ったMPは1。

 ひるませることはできても、火力としては全く持って足りていないのだ。


「次、左から」

「了解」


 そして再び、オーガから逃げ回りつつ俺は捜索を続けた。

 変化があったのは、それから五分後。


 迷宮の比較的開けた場所に、そいつはいた。


「――ダイヤモンドオーガね、見た目は名前そのままだな」


 立っていたのは、バトルオーガよりも更に数段大きいオーガだった。

 身体はくすんだ金剛石のように好き通り、どこか妖しい美しさがある。

 だが、それでもオーガはオーガ、美しさよりも強大さのほうが印象としては上回る。


「――――」


 倒すべき敵は、かくしてこちらを見下ろし。

 戦いが始まる。

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