第53話

 俺が今回の件を受けた理由はいくつかある。

 一つは言うまでもなく経験値。


 ダンジョンハザードから冒険者を助けるだけで、レベルが一つ上がった。

 これはまぁ当然といえば当然のことなのだが。

 コスパでいうと、これだけだと少し弱い。


 なにせ俺がダンジョンハザードから冒険者を助けると、俺の知名度は一気に上昇する。

 あのギルドの様子を見れば、今後俺が普通の冒険者として活動することは不可能に近いだろう。


 それを理解しても魅力的に思えるくらい、今回は経験値の効率が良かったのだ。

 なにせハザード発生時の救助だけでなく、ボスの討伐でも経験値が入るからだ。

 特にボスは、バトルオーガと違って普通に経験値が入る。

 更に、ボスを倒したことに依る依頼達成の経験値も多い。

 おそらく、それぞれで一回ずつレベルが上がる。


 事件を終わらせれば、レベルが3上がるというわけだ。

 これは流石に大きい。


 危険度を考えると、治療院で人々を治療している方が安全で効率もいいのだろうが。

 ダンジョンハザードであれば、冒険者を続けたまま経験値を得られる。

 これはかなり大きかった。


 そして、俺の知名度が上昇するのは遅かれ早かれである。

 愛子は事件に巻き込まれるもの。

 だというなら、いま事件から逃げても、また別の場所で事件が発生するだろう。

 だったらその事件から逃げるよりも、事件に立ち向かったほうが精神的にも、経験値的にも得られるものは大きい。


 人として、レベリング中毒者として、俺がこの事件に関わらない理由はなかった。


「……もちろん、解ってるよ受付嬢さん」

「……! ありがとうございます!」


 しかし、何より……


「受付嬢さん……レベッカさん」

「……はい」

「俺は……見ての通り、他の人とは違うものを持っている。与えられたと言ってもいい」


 俺が望もうと望むまいと、俺という存在はこの世界に大きな影響を与えてしまう。

 正直、面倒だと思う。

 ずっと、レベリングとそのための準備だけして生活していたいと思う。

 でも、そもそも俺がレベリング中毒に陥っているのも、この世界に来ることができたからだ。


 もし、そうでなければ俺は死んでいた。

 そうでなければ、俺はレベリング中毒に陥ることすらできなかった。


「だったら、与えられたものに報いる必要はある。どこかで必ず、俺がどう思おうと」


 だったら、俺は俺のやりたいと思う場所で、それに報いたい。



「それがレベッカさんからの依頼なら、俺は大歓迎だよ」



 結局。

 俺がこの依頼を受ける一番の理由は、俺が納得できるかどうかだ。

 そして今、十分なくらい納得できる理由で、俺はレベリングの成果を見せるときが来た。

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