第52話
そもそものことの発端は、受付嬢さんからダンジョンハザードの件を聞かされたこと。
前回の発生から二十年。
次がいつ発生してもおかしくないというのを、雑談の流れから聞いてしまったのだ。
とはいえ、本来ならそんなのありえない可能性である。
いくらいつ発生してもおかしくないからって、そうそう俺が来てすぐにダンジョンハザードが発生したりはしない。
しかし俺は転生者……“愛子”なのだ。
俺以外の転生者が、この世界で多くの功績を残してきたように。
愛子と大きな事件は、切っても切れない関係にある。
物語で主人公の周りばかり事件が起きるのと同じように。
愛子は、トラブル誘引体質としか言えないくらい、周囲で事件が起きるそうだ。
ただ、これに関してはどちらかというと、愛子がトラブルを起こすというよりは、トラブルが起きるから愛子がその近くに現れるというのが正しいかも知れない。
これに関しては、割と根拠のある推察があるのだが、今は関係ないので割愛する。
「討伐していただきたいのは……“ダイアモンドオーガ”。バトルオーガが出現した際に、ダンジョンハザードの核となる魔物です」
受付嬢さんは、神妙な面持ちで話を続ける。
そもそも、ダンジョンハザードは、発生するとその原因とも言うべき大ボスが出現する。
それらを倒すことで、連鎖的に他のハザードで発生する魔物も消滅するのだとか。
「ダイアモンドオーガは、これまでダンジョンハザードでしか出現を確認されていない魔物。……しかも、前回の出現はもう数百年以上昔のことで、ほとんど資料も残っていません」
バトルオーガは、一応大規模なダンジョンに行けば極稀に出現が確認されるらしい。
「……妖精も、ダイヤモンドオーガ、知らない。わたしも……ごめん」
フードの中で、申し訳無さそうにクロがいう。
いや、いいんだ。
と声をかけることは、今はできなかった。
「ですが、推測はできます。バトルオーガのDEFは40程度と言われています、ATKは60程度。これを、更に強力にした感じでしょう」
「……DEF50から60程度か、結構ギリギリだな」
あと、ATKに対してDEFが非常に高い。
ただでさえATK半減能力を持っているのに、何だそれは。
本当に巫山戯た魔物である。
「それと、もう一つ」
「もう一つ?」
「ダイヤモンドオーガに傷つけられた人間は、ある種の呪いを受けるそうです」
呪い。
よくある話といえばそうだが、明らかに物理攻撃に特化していそうなオーガが使うというのは、いささかピンとこないな。
「……特別強い魔物、総じて人を呪う」
なるほど。
クロの補足にうなずく。
つまり、単純に大型ボスの基本性能ということだろう。
なんとなく魔物の存在という根本的な部分にかかってきそうな話だが。
今は置いておく。
「そしてこれが……ツムラさんにダイヤモンドオーガを討伐してもらいたい理由でもあります」
「……本来なら、冒険者の救助が終わったらダンジョンを閉鎖して、他からの救援を待つんだったよな?」
そもそも、ダイヤモンドオーガの情報がほぼないのに、呪うことが解っているということは。
誰かが呪われたということだ。
聞くと、その呪いを解くにはダイヤモンドオーガのドロップアイテムが必要になるらしい。
「……はい、ですのでツムラさん、お願いします」
故に、受付嬢さんは結論を述べる。
「救援を待っていたのでは、助からない冒険者の子が一人、いるんです。……彼女を、助けてください」
そして深々と、お辞儀をするのだった。
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