第50話(他者視点)

 ダンジョンハザード。

 ダンジョンの防衛機能によって発生するそれは、本来ならば多くの被害を冒険者にもたらすはずだった。

 上層でのハザード発生で、生き残れる冒険者はそう多くない。

 少なくとも、前回このニシヨツの街で起きたダンジョンハザードは、最終的に街に魔物が溢れ出すという最悪の被害を起こした。


 それが、二十年ほど前のことである。


 そして今回、いつ起きてもおかしくないと思われていた上層でのダンジョンハザードは、ついに起きた。

 出てきた魔物も最悪といっていい。

 バトルオーガ。

 通称格下殺し。

 攻撃を受けても、攻撃力ステータスを半分にしてしまう絶対的な装甲は、どう考えても田舎町の木っ端ダンジョン上層で出現していいモンスターではない。


 本来であれば、今回もまた壊滅的な被害を被るはずだった。

 だが、そうはならなかったのだ。


 驚くべきことに、今回のハザードで

 一つは、初動の対応が完璧だったこと。

 これには、とあるギルドの受付嬢が関わってくる。


 レベッカという名の彼女は、とても優秀で普通なら受付嬢の器に収まる女性ではない。

 なぜ彼女がこの街で受付嬢をしているかといえば、彼女が二十年前のハザードの被害者だからだ。

 ハザードで両親を失った彼女は、ハザードへの対策に執念を燃やしてきた。


 だが、それにしたって、完全に死者が出ないように立ち回ることは難しい。

 しかし、だとしても。

 それを成し遂げたのが、一人の冒険者の功績だということを一体誰が信じられるだろう。


 ツムラ。

 少し前にこのニシヨツへやってきた冒険者。

 いや、やってきた時はそもそも冒険者ですらなかった男。


 一見すれば、どこかの田舎から冒険者になるために出てきたのだろう。

 レベルも21と、ごくごく平凡。

 ユニークスキルというアドバンテージこそあったが、それでも一見しただけでは特別なところはなにもない。


 本当に、平凡そうな男だった。


 それが、何をおもったか冒険者としての役割ロールをすべて希望するといい出して。

 そのために、取得していなかった支援魔法のかわりに治癒魔法をバフに使うなんて。


 だが、何より大きいのは彼が――彼だけが今このニシヨツで唯一バトルオーガを倒せる冒険者だということ。

 そんな彼が、五階層から冒険者を救助して回った。

 一階から冒険者を救助して回った、下層の冒険者たちに対して逆走するように。


 結果として、通常の半分の時間で冒険者を救出したことが、死者を出さなかった要因に繋がった。

 そうなれば、当然ツムラは注目を集める。

 もとより、それは遅かれ早かれだったとはいえ……本来であれば、それはツムラの望むところではなかったはずだ。

 しかし、今。

 彼はこうして、ニシヨツで最も注目を集める冒険者になっている。


 なにせ、バトルオーガの出現に端を発するダンジョンハザードは未だ解決していない。

 あくまで冒険者を救助し、被害を最小限に止めただけ。

 事態は何も解決していない。

 故に、状況は次のフェーズへ移ろうとしていた。

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