第49話
幸いなことが一つあった。
「バトルオーガは攻撃が通らない。だが、攻撃を叩き込めば足止めはできる! 魔法を使えるものは一人でもいい、魔法をバトルオーガに叩き込んで時間を稼げ!」
そう、周りに呼びかける者たちがいた。
一人ではない、複数だ。
「下層の冒険者だ!」
「助かった……」
普段は下層で探索を行う冒険者たちが、応援に駆けつけたのだ。
今日がダンジョンの更新日だということはギルドも解っている。
入り口でスタッフが待機していて、何かあった場合は転移魔法陣を使って下層に助けを求める手はずになっていたんだ。
この階層は、彼らに任せても大丈夫なはずだ。
「けど、助けるなら一階から順番にやるはずだよな」
「ん、そうだね」
とはいえ、人手は圧倒的に足りていない。
一層から順番に、冒険者を転移魔法陣に誘導していくしかないだろう。
「俺達は、五階から回ろう」
「理解った」
ここ数日の探索で、五階までの転移魔法陣は使えるようにしてある。
中層に入るのはレベルが25になってからの予定だったので、六階にはまだ行っていないが。
今回はそれで問題ない。
「あ、ツムラさん!?」
「受付嬢さん!」
転移魔法陣に急いで向かうと、受付嬢さんがいた。
この状況で、彼女がいないはずはないからな。
「ツムラさん、実は――」
「状況は把握してる。俺が五階からバトルオーガを潰して冒険者を救助して回る!」
「ツムラさんにも、バトルオーガの足止めを……はい!?」
どうやら、受付嬢さんは俺にもバトルオーガの足止めを手伝ってもらいたかったらしい。
だが、それよりも俺は個人で動いたほうが身軽に動ける。
「バトルオーガは、俺のステータスならギリギリ倒せる」
「……倒したんですか!?」
「ああ、ドロップもないから証明できないが、信じてくれ」
「…………」
受付嬢さんは、考え込んでいる。
しばらくして、
「……信じます、信じますよ。あなたならそれくらいやりかねない」
「じゃあ」
「くれぐれも、無茶はしないでくださいね」
「解ってる」
受付嬢さんのお墨付きを得たことで、俺は転移魔法陣へと進む。
めちゃくちゃ、しょうがない人だという視線を主に二方向から受けるが……知ったことか。
経験値が俺を待っている。
もとい、冒険者を一人でも多く救助するのだ。
――五階へと入った。
そこでも、悲鳴があちこちから聞こえてくる。
さぁ、ここからは時間との勝負だ。
まずは、あることをする。
治癒魔法によるバフを、俺は“喉”に行った。
何のためか?
「みんな、聞いてくれ! 俺は君たちの救助に来たものだ!」
声を、ダンジョン全体に届けるため、発声能力を強化したのだ。
酷使される喉から、普段の数倍くらい大きい声がダンジョン中に響き渡る。
迷宮タイプの閉鎖された場所でよかった。
声は、一気に反響してくれた。
「必ず助ける! だから少しでいい! その場で生き残るための行動をしてくれ!!」
これが、彼らにきちんと届くかは解らない。
それでも、やるべきことはする。
「よし……行くぞ」
治癒魔法で喉を元通りにして。
俺は勢いよく、ダンジョンへ向けて駆け出した!
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