第46話
ダンジョンの更新日。
つまり、冒険者たちが持っていった宝箱が、再びダンジョンに現れる日。
この世界のダンジョンは、正確に言うと魔物の一種らしい。
宝箱はそんな魔物が人間を中におびき寄せるための餌。
まぁ、現在のダンジョンは完全に管理され、人間に利益をもたらす場所となっているわけだが。
「愛子のおかげ」
「だろうなぁ」
ふんす、と自慢げにクロが言っていた。
つまり人間をおびき寄せる危険な魔物だったダンジョンの管理を確立させた転生者がいたってことだな。
いやぁ、お疲れ様です!
「人、多い」
「フードの中入っとけばいいさ、流石これだけ多いと緊張するだろ」
そうする、とクロはフードの中に籠もる。
ちなみにクロの人見知りは人間モードのときに緩和されるらしい。
妖精の視点だと人間がクソでかいのが苦手なんだろうな。
ともかく、現在のダンジョンは冒険者で溢れかえっていた。
普段の倍くらい冒険者を見かける。
当然だ、宝箱のリポップという一番の稼ぎ時。
やる気のある冒険者も、怠惰な冒険者も、等しくダンジョンに集まる日だ。
……それで倍になるってことは、普段は怠惰な冒険者はダンジョンに来てないってことか?
まぁいいか。
「ダンジョン更新、魔物増える。気をつけて……一応」
「一応、ね。まぁ、むしろ俺にとっても今回は稼ぎ時だ」
人助けマラソンにしろ、宝箱見逃し経験値にしろ。
人が増えるってことは機会が増えるってことだ。
ま、ちょうどいいな。
「……来る」
「解るのか?」
「ダンジョン、魔物。更新、敵意」
把握。
そして、クロの察知に少し遅れて……ダンジョンが少し揺れた。
「っと」
別にバランスを崩したわけではないが、揺れに合わせて周囲を見渡す。
一瞬のことだった。
自分がいる景色が、一変する。
「揺れと合わせて、酔うやつが出そうだな」
「おろろ」
「三半規管強いんじゃなかったか!?」
「言ってみただけ」
フードの中で出さないでくれよ!?
びっくりしたわ。
んじゃ、さっさとダンジョンを回るとしようか。
まぁ、早々ないとは思うが。
受付嬢さんから頼まれてるからな。
なんてことを考えていると――
「だ、ダンジョンハザードだぁあああ!」
周囲から、冒険者の悲鳴が聞こえた。
「……マジかよ」
驚く俺に、改めてクロが解説を入れてくれる。
「……ダンジョン更新の時、特別な魔物が湧く時、ある」
なんでも、ダンジョンは防衛行動として、時折ダンジョンに普段は出現しない魔物をポップさせる時があるという。
出てくる魔物は強力で、普段その階層で探索を行っている冒険者は太刀打ちできないことがほとんどだそうだ。
ちなみに、ダンジョンには上層、中層、下層という区分があって、層を変えるごとに出てくる魔物の強さが変わるらしい。
このダンジョンは全部で十五階層のダンジョンで、1から5階が上層、6から10が中層、11から15が下層。
「普通、ダンジョンハザード、下層で起きる」
「今回はイレギュラーってことか」
ダンジョンハザードは、上中下層のうち、どこか1つの階層で起きるもの。
下層で起きる確率が最もたかく、上層はほとんど起きない。
具体的には下層が一年に一回、上層は十年に一回程度とのこと。
「百年、起きないことも、ある」
「そりゃまた」
「一番厄介なのは……」
厄介なのは?
……このあたりは、受付嬢さんから聞いてないな。
なんだろう。
「ドロップと……経験値が、全然」
「マジか」
「ドロップ、落ちない。経験値は――」
「経験値は?」
一拍、クロが沈黙して、言った。
「5点」
「すっくねぇ!」
マジで少なかった。
スライム以下かよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます