第45話
普通の冒険者とは。
まぁ、そもそも転生者であり、ユニークスキルを有している俺が、普通の冒険者になることはできない。
自分で言うのもなんだが、俺は特別な存在なのだ。
俺自身がそうなりたいと望む、望まないに関わらず。
そうならざるを得ない。
まぁ、流石に治療院でお偉いさんルートみたいな、責任がねずみ算式に増えていくのは勘弁だが。
いずれ、俺は世界有数の冒険者になってしまうのだ。
レベリングという、この世界で強さを手に入れる方法に恋焦がれているがために。
「一般的に、冒険者というのは怠惰なものです」
「働く時間や内容を、自分で決めれるから、か」
「はい。他にはそもそも冒険者になる人の性格的な問題とかですね」
なので、今のところソロで冒険者をしている。
まぁ、クロはいるけど、それでもだ。
なお現在のクロは荷物袋の中で寝ている。
「冒険者というのは、誰でもなれる分、他の職で働けなかったり、炙れてしまった人たちの最終就職先です」
「レベルを上げて強くなれる人間が、冒険者になることはそうそうない、か」
「はい。確かに理論上、レベルを上げていけば一年で10レベル上げることは可能です。ですが、それができる人間はその時点で世界でも一握りのエリートなんです」
レベルを上げることが、この世界では普通ではない。
だったら、レベルが一年で10上がるということは、それだけ信仰心が篤いかストイックにレベルが上がる行動に励めるかのどちらかだ。
「平均三年と言いましたが、これでも早すぎるくらいです」
「理由は……そもそも三年経つ前に、冒険者を止める人間が多いからか」
「はい。冒険者になる人は、冒険者みたいな重労働を長く続けられませんから」
だが、そうでないものもいる。
「でも、冒険者として大成する人間だっているだろ?」
「はい。冒険者はあぶれ者の最終就職先という側面以外にも、誰にでも与えられた挑戦の機会でもありますから」
世界には、冒険者として大成した人間の伝説や物語が無数にある。
そういう無数の英雄譚に憧れて、冒険者になる人間もいる。
「だいたい、割合としては半々くらいですかね」
「で、そのやる気に溢れた半分が、三年でレベルを10にする、と」
「ああでも、例外はありますよ」
っていうと?
「冒険者でなければ、叶えられない願いがある場合、です」
なるほど、確かに。
「たとえば……ダンジョンを踏破することでしか得られない報酬、とか」
「レアドロップのアイテムは、基本的にダンジョンからしか出ないものな」
「そういうことです」
なんというか、少し含みのある言い方だな。
例外ということは、冒険者になる動機としては珍しい動機なんだろう。
そういう動機は、まぁ正直受付嬢さんの言った内容以外にも当てはまるものはあるはずだ。
受付嬢さんの周りに、そういう理由で冒険者になった人がいるのかもしれない。
まぁ、俺には今のところ関わりのないことだな。
「ところで毎度思うんだけど」
「なんですか?」
「受付嬢さん、なんでそんなに聡明なのに、こんなところで一介の受付嬢してるんだ?」
「そうめっ……」
受付嬢さんは、なんか顔を赤らめて黙ってしまった。
そんな口説き文句みたいだったかな? 今の。
「わ、私は……そんな特別な人間ではありません。どこにでもいる普通の……ええ、普通の町娘だったんですよ」
「……?」
そうしていると、受付嬢さんが、ポツリとこぼす。
これは……なんというか。
「……ツムラさんに、聞いてほしいことがあります」
彼女は、なにか覚悟を固めた様子で、俺にそう切り出してきた。
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