第44話

 ある時、受付嬢さんにステータスを見せる機会があった。


 NAME:ツムラ

 LV:23

 EXP:9050(NEXT:910)

 HP:125/125

 MP:120/120

 ATK:115

 DEF:115

 MAG:115

 MID:115

 AGI:115

 SKILL:『ステータス上昇均一化』『火魔法:初級』『治癒魔法:初級』『水魔法:初級』『アイテムボックス』


「どうしてレベルがまた上がってるんですか、どうして……」

「いやあ、頑張った」


 実際頑張った。

 ここ数日、朝から晩まで人助けマラソン。

 他にもダンジョン内でこなせる依頼を受けれるだけ受けて、こなす。

 ダンジョン内でこなす依頼はほぼ全て討伐依頼か討伐による素材採取依頼だから、魔物を倒す経験値も手に入る。

 下層に潜れば潜るほど、敵も強くなるから経験値が増える。


 好循環である。

 正のスパイラルというか。


「絶対おかしいですよ!」

「そんなにか?」


 いやまぁ、確かにハイペースだとは思うけど。

 でも、レベルなんて一年もあれば10上がるだろ?


「上がりません!!!」

「人の考えてること読んでまで否定しなくても……」

「いいですか!? 一般的に、普通の冒険者がレベルを20から30にするのにかかる時間は、平均三年です!」

「想定の三倍かかってた」


 いやでも、そう考えると納得だ。

 一年で10レベルってのは、ほぼ毎日欠かさずダンジョン等に通い、経験値を稼ぎ続けた場合。

 一月に働く日数が20日として、一日100経験値を稼いだ場合の話だ。

 これでも、たまに休みを増やしたりして、リフレッシュする時間を考慮している。


「普通の人は、一月に20日も働きません」

「!?!?!?!?!!?!?!?!?」


 え、でも人間は週五日働くものだよな?

 一日八時間、週四十時間。

 ここに残業も込み込みで四十五時間いかないくらいが個人的な理想だ。


「だ、だよな?」

「なんですか、その地獄みたいな労働時間……」


 うそ、だろ…………?

 そうか、俺はおかしくなっていたんだ。

 現代で社畜をしていたせいで、働くことは当たり前なことだと思い込む様になっていた。

 なんてこった、おかしいのは俺の方だったんだ。


「ちなみに、レベル40になるまでにかかる時間は平均10年、そもそもレベル40になる冒険者の割合は全体の三割です」

「それは……普通に少ないな」


 死亡率が高いにしても、もう少し頑張ろうぜ?

 レベリング、楽しいからさ。


「目をキラキラさせながら、地獄みたいなこと考えないでください」

「……俺は、受付嬢さんが名探偵すぎて、そっちの方が怖いよ」


 そりゃ目を輝かせてたら、碌でもないこと考えてるだろうってのは推測できるだろうけどさ。

 内容まで一言一句正確に当てられると怖いよ。


「……そうだ、もうすぐダンジョンの更新日です。潜るな、とは言いませんが、更新された直後は魔物が増える傾向がありますので、お気をつけて」

「流石に俺でも、更新日が一般的に稼ぎどきだってのはわかるぞ」

「だからこそ、命に関わることは十分気をつけてほしいのですが、冒険者の方は言っても聞いてくれないんですよねぇ」


 そりゃ大変そうだ。

 個人的には、レベリングでドン引きされるより面白い話が聞けそうなので、俺と受付嬢さんの雑談は、冒険者の生活事情へと移っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る