第39話(他者視点)

 ――なんというか、とんでもない人だった。

 ツムラと名乗る冒険者の相手をしていた受付嬢は、どっと押し寄せた疲れに、一つ大きな息を吐く。


 冒険者の間で、有名な格言がある。

 ユニークスキルは、変人に宿る。


 彼は、その体現と言ってもいい人だろう。

 HPが極端に低いかわりに、DEFとMIDを初めとした各種ステータスが極端に高い。

 ステータス上昇均一化というスキルは、数値上では非常に均一なステータスができあがる。

 だが、その実際は非常にピーキーで扱いにくいスキルと言えるだろう。


 ある程度の格上相手までなら、ほぼ完封できるステータスを手にする。

 かわりに、万が一でもDEFを越えるATKを持った魔物に出くわした場合、待っているのは死だ。

 とはいえそんなモンスター、レベルが40を越えなければ早々出てこないだろう。

 何より、ツムラはまだレベル21で、防具等も装備していなかった。

 伸びしろが大きいのだ。


 だから、最初のうちはスキルこそピーキーだが将来有望な冒険者だと思っていた。

 こちらの話に、ほとんど補足なくついてくる聡明さもあるのがいい。


 思っていた……のだが。


「ええと、今日も薬草採取依頼ですか?」

「ああ、森で試したいことがあるから、ついでにな」


 彼は、薬草採取依頼しか受けなかった。

 薬草採取依頼は、新人向けの簡単な任務だ。

 報酬は少ないかわりに安全で、最初のうちはこれで信仰を高め、レベルが上がるのを待つのがいいとされている。

 だが、あまりにも報酬がまずい(一日働いて、一日食べていくだけのお金しか手に入らない!)ので、毎日受ける人間はいない。

 それをどうして、こんなにも連続で?


「治療院での治癒魔法支援の依頼を受けたいんだが」


 次に彼が受けたのは、治療院でのアルバイト依頼だった。

 これもまた、治癒魔法が使える冒険者のお小遣い稼ぎみたいな依頼だ。

 薬草採取よりは報酬もいいが、やはり普通に冒険するより稼ぎは少ない。


 何のために……? とおもったが、正直ちょっと怖いので受付嬢は聞かなかった。



 ――翌日、治療院の偉い人が、ツムラにまた依頼を頼めないかとやってきた。



 何事!?

 どうやら、ツムラは治療院で八面六臂の大活躍を果たしたらしい。

 なにせ折れた骨を完全な状態に治療してしまうほどの治癒魔法の精度だというのだから。


 ――おかしい、彼は初級の治癒魔法しか使えないはず。


 しかも、何故か彼が治療した患者は、全員非常に肉体の調子がいいという。

 腰の折れ曲がった老人が、彼の治療を受けるとピンピンした様子で出てくるのだから、凄まじいというほかない。


 結局、ツムラにこれ以上治療院のバイトを受ける意思がないと解り、偉い人は帰っていった。

 とうのツムラは、今日も薬草採取に出かけていたのだが。


 そして極めつけが――


「ああ、してるからな、今は」


 ――受付嬢は、彼に関わったことを後悔したくなった。

 なんだそれは!?

 ただでさえ初級の治癒魔法で上級並の効果を出している疑惑があるというのに。

 治癒魔法にそんな使い方が!?

 ありえないだろ冗談も大概にしろ!!


 こほん。


 もしも、このことをギルドに報告すれば彼は凄まじい名声を手に入れるかも知れない。

 しかしここまでの付き合いから、彼はそういう名声に興味が無いようだった。

 何より自分自身、この事は猛烈に見なかったことにしたい。

 故に、ある提案をした。


 これ、レアスキルってことにしない?


 ――そのことを、彼もすぐに思い至った聡明さが、今はなぜだかとても憎たらしかった。


 なお、受付嬢は知らない。

 彼は現在、まだ大人しくしている方なのだということに。


 彼の本性が、狂信染みたレベリング中毒者であるということを、彼女はまだ知らないのだ。

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