第38話

 ……ようは、逆にすればいいんだ。

 俺が思いついたのと同時に、受付嬢さんが提案する。


「レアスキルをバフ関連のレアスキルだと伝えれば、納得していただけるかと」

「……実際、レアスキルみたいな挙動するからな、俺のバフ」

「具体的には?」

「効果量は+10だが、効果時間は50分」

「50分!?!?!?!?」


 ガタタッ!

 今度は崩れ落ちてしまった。


「だ、大丈夫か?」

「ご、ご心配なく。私も治癒魔法は使えるので、怪我しても問題ありません」


 な、なるほど。


「ですが……そういうことでしたら解りました。すべてのロールで登録できるよう申請しておきます」

「ありがとう受付嬢さん」

「いえ……ツムラさんは特別ですので」

「?」


 どういう意味だ?

 愛子ってことがバレてる?

 普通にありそうだな……名探偵だし。


 ともかく。

 これでロールの登録は終わった。

 明日にでも、冒険者カードにロールが記載されるらしい。


「ありがとう、受付嬢さん」

「いえいえ、ツムラさんのご活躍をお祈りしています」


 ――そう言って、受付嬢さんと別れ俺はギルドを出た。

 そのまま、人気のない裏路地まで入り、クロと話ができるようにする。


「おめでとう。これでツムラ、本格的に冒険者」

「ああ……ふふふ」


 クロの感情が乏しい賛美を受け取りつつ。

 俺は、顔をニヤつかせていた。


 ――俺が検証に時間をかけた最後の理由。

 それは、



「レベル上げだ、レベル上げができるぞ……ふふふふふふ」



 から。

 このためだ! 全てはこのときのため!!

 俺は、俺は今まで堪えてきたんだ!

 ギリギリまで手に入る経験値を抑え! レベルアップ欲を溜めてきた!


 治療院で一気に500点入った時は焦った。

 危うくレベルアップしてしまうところだったし、不意に訪れたつよつよ大量経験値を前に、衝動を抑えるのに必死だった!

 だが、そんな長い長い耐えの日々も今日でおしまい。


 俺はいよいよ、冒険者として、レベリングを開始する!


 まず最初の目標はレベル25だ。

 おそらく取得できるだろう中級の火魔法を手に入れる。

 これがないと、パーティを組むための交渉が大変になる。

 中級スキルは、レベル20帯だと自分が一番得意としているロールを表明するための最もわかりやすい方法だ。

 俺の場合は、アタッカーがメインのロールであると周りに伝えることになるだろう。


 他にも、ドワーフ工房のアタックサーチは是が非でもほしい!

 アレがあれば、俺はもはや無敵だ。

 店主はアレを俺に売ってくれるといったし、俺も買う気満々である。

 これまでは検証に時間を費やしていたのもあって、収入と支出はとんとんだったが、これからは違う。

 経験値だけじゃない、お金だってガッポガッポ稼いでやるのだ。


 未来は明るい。

 レベリングの時間だああああああ!

 ふ、ふふ、ふひょひょ。

 ひょひょひょひょひょひょひょ!!


「――ツムラ、怖い」


 と、発狂していたらクロにそう言われて、俺は正気に戻るのだった。

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