第37話

 なぜ、治癒魔法を支援魔法のかわりにしようと思ったか。

 まず一つ大きいのは、「できると思ったから」。

 これまでこの世界の魔法を使ってきた感覚的に、多分行けるだろうと思ったから実際に検証してみたのだ。


 だからまぁ、できないならできないでも、それでよかった。

 とはいえできたら便利だろうなぁ、という思いもあったので成功したなら何よりだ。


 だが、それはあくまで切っ掛けの話。

 俺が支援魔法の代用や、タンクの練習に時間を費やしたのは他に二つの動機がある。

 一つは――


「というわけで受付嬢さん、役割ロールの登録を行いたいんだけど」

「はい、ツムラさんはどういったロールをご希望ですか? やはりヒーラーですか? それともタンク?」

「――だ」

「はい?」


 そう。

 俺は、四つのロールすべてをこなせるようになりたかった。

 できることが多くなると、それだけで選択肢が増える。

 パーティを組めば、仲間を助けることでも経験値が入る。

 何より、やれるとおもったらとりあえずやってみたい!

 最終的にパーティ組まない方向性になったとしても、それはそれだ!


「アタッカー、タンク、ヒーラー、バッファー、全部のロールで登録をお願いしたい」

「え、いえあの……バッファーは無理ですよ! ツムラさんは支援魔法を取得していません!」

「それなんだけど、ステータスを見てほしいんだ」


 NAME:ツムラ

 LV:21

 EXP:5900(NEXT:10)

 HP:115/115

 MP:110/110

 ATK:105+5

 DEF:105+5

 MAG:105+3

 MID:105

 AGI:105+10

 SKILL:『ステータス上昇均一化』『火魔法:初級』『治癒魔法:初級』『水魔法:初級』『アイテムボックス』


「……? えっと、ツムラさん。AGI装備はされてません……よね?」

「ああ、してるからな、今は」

「…………治癒魔法!?」


 ガタッ。

 受付嬢さんは椅子に座っているんだが、思わず立ち上がってしまった。

 驚くとは思っていたが、そこまでか。


「ええと、話すと長くなるんだが……」

「あ、いえすいません。……ツムラさん、どうやって治癒魔法でバフしたかを別室ですべて話すか、私が聞かなかったことにするか……どっちがいいですか?」

「……ああ」


 とんでもない大発見になるから、聞くならここでは話せないってことか。

 面倒はゴメンだな。

 いずれ話すならともかく、今話して時間を取られても困る。

 俺には時間がないんだ。


「しかしそうなると、バッファーとしてロールを登録できないな」


 ロールを登録するのは、他の冒険者に自分ができることを表明するためだ。

 パーティを組むときに円滑な交渉ができるように。

 だが、支援魔法のないバッファー等信用できるだろうか。

 ロールはギルドが認めないと登録できないそうだが、だからって支援魔法がスキル欄にないなら、相手は疑うだろう。


 そう考えて、ふと思いついた。


「いえ、こういう方法もあります」


 名探偵である聡明な受付嬢さんが“それ”を提案したのは、全く同じタイミングであった。

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