第34話

 さて、タンクができるようになったものの(強弁)。

 俺にはもう一つ、やってみたいことがあった。

 レベリングを始めたらそれしか目が入らなくなるから、それ以外の検証はまとめてやっておきたいというのもある。


 何を検証するかというと、ずばりバッファーだ。


「?????」

「どうしたクロ、なんか宇宙猫みたいだぞ?」

「なにそれ?」

「なんでもない」


 という話を聞いたクロは、変なものを見る顔で俺を見ていた。

 失敬な、俺は至って本気だぞ。


「……支援魔法は使えないのに、バッファー?」

「ああ、少し案があってな」

「それはわかった。けど、どうして治療院に?」


 治療院。

 簡単に言うと、けが人や病人を見る場所。

 つまり病院。

 この世界では、治癒魔法があるので、けが人を治すのは治癒魔法の仕事だ。


 だから、冒険者ギルドには「治療院の手伝い」というクエストが張り出されることがある。

 それを受けて、俺はここにやってきたのだ。


「何、治癒魔法はバフに使えるんじゃないかと思ってな」

「?????」


 クロはかしげていた首を百八十度反転させた。


 というわけで治療院のスタッフに行って、治癒魔法のクエストを受けさせてもらう。

 スタッフも手慣れたもんで、個室に案内してくれた。


「こうして個室で患者を待つと、医者になったみたいだ」

「みたいじゃなくて、なってる」


 ともあれ。

 すぐに患者が入ってきた。

 年老いた男性だ。


「今日はどこの治療を?」

「ああ、すまんなあ、転んでしまって腕を少しな……」


 この年で転んだとなれば、一大事だろう。

 腕は多分折れているな。

 とはいえ、そういうことなら治癒魔法の出番だ。


「よし……癒やしよ」

「おお」


 俺が手をかざして治癒魔法を行使すると、感心した様子で老人が声を上げる。


「その年で無詠唱とは……将来優秀だのう」

「どうも」


 いや、詠唱で魔術を使ったことがないだけなんだが……

 後無詠唱なら、起動のための合図もなしで起動するもんじゃないか?

 ともかく、まずは治療だ。


 治癒魔法は、自分の魔力を他人の身体に流し込み、魔力を操作して傷ついた箇所を修復する魔法だ。

 自分に使う場合は、他人に流し込む工程は省略される。

 なので、他人の身体を俺の魔力が浸透し、その状況を魔力越しに知らせてくる。


 老人だからか、肩と腰が弱っているようだ。

 腕は折れていた。

 比較的キレイに折れているのは幸いだが、まぁ治癒魔法で修復するからそこはどうでもいい。


 まず、骨を元形に戻す。

 魔法全てに言えることだが、魔法とはイメージを魔力で現実にする力である。

 だから治癒魔法は、如何に怪我した箇所を元通りのイメージで覆えるかの勝負。

 その点、異世界人よりも人体の構造を把握している俺は有利だな。


「……痛みが消えた」

「骨はこれで大丈夫かな。後は……」


 そう言って、俺は魔力を肩と腰に流す。

 脚も弱っているな。

 これらを、健康なイメージに置き換えるのだ。


「……!?」

「どうだ?」

「なんじゃこれは、身体が軽い!」


 すっくと、老人は立ち上がる。

 身体の痛みが取れて、調子がいいのだろう。


「おお、なんという……なんということだ……」


 って、老人は泣き出してしまった!

 いやまぁ、理解らなくはないけど。

 それはそれとして、むず痒いぞ!?


 ――めちゃくちゃお礼をされながら、老人は帰っていった。

 その後もやってくるけが人の、身体の不調をついでに治していたら、めちゃくちゃ感謝されてしまった。

 これ、そういうSUGEE展開が始まるやつじゃん。


 だめだぞ!? 今回はあくまで、試したいことを試しに来ただけなんだから!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る