第31話

 というか、俺とクロが如何わしい関係だと誤解されてしまったような気がする。

 出会って数日の相手だぞ? そういう関係に発展する以前の問題だ。


 幸いなのは、おばさんの視線から察するに、俺はロリコン趣味だとは思われていないらしい。

 クロは背丈こそ小柄だが、そこまで子供という雰囲気はない。

 でももしかしたらアレかもな、原因は俺の顔立ちが幼く見えるからか?


 偶に、日本人が若くみられる異世界モノがある。

 そういう感じかもしれないな。


 ……そこでふと、考えてしまった。

 俺のレベルは平均的だと受付嬢さんは言っていたが、それは俺の年齢が若く見られていた場合じゃないか?

 …………よし。


「というわけで、今日から気合い入れて冒険者やっていくぞ!」

「お、おー……どうしたの?」


 クロから心配されてしまった。

 現在、俺達は街の外の森にいる。

 このニシヨツの街にはダンジョンがあるのだが、まだ潜らない。

 潜るのは、本格的にレベルを上げる前の準備を済ませてからだ。


 では、準備とはなにか。

 ロールを決めることだ。

 わかりやすいな。


「まずはタンクを試す。そのためには……」

「……ゴブリンを相手にするのがいい」

「やっぱりか」


 と、クロのアドバイス。

 正直予想通りだった。

 ゴブリン、スライムと双璧を為す雑魚魔物。

 ただ厄介度はスライムと段違いだ。

 なにせ四肢がついていて、走ることもできれば、武器を握ることもできる。


 攻撃手段が多彩。

 だが、弱い。

 スライムと比べれば厄介だが、それでも倒しやすい相手に違いはない。


「冒険者になりたい村の子供達は、ゴブリンで戦い方を学ぶ」

「……ゴブリンが、ただの雑魚魔物でよかったな」

「?」


 これがエロいこともしてくるゴブリンのいる世界観だったら、普通に考えてゴブリンを練習台にはしないよな。

 まぁ、クロに話すことではないので、本題に戻ろう。


「ついでに、薬草採取の依頼も受けた。きっちりこなせば、100点のEXPになる」

「頑張ろう」


 後、金も手に入る。

 まぁお金はついでだよついで。

 今は経験値とゴブリン退治だ。


「普通逆だと思う」

「いいからいいから」


 というわけで少し歩いて、ゴブリンを見つけた。

 薬草? まぁぼちぼち……


「ぎゃぎゃぎゃ!!」

「来る」

「解ってる」


 俺は早速アイテムボックスから盾を取り出す。

 正直、要らないっちゃ要らないが、今日の目的は盾でゴブリンの攻撃を受けることだ。


 迫りくるゴブリン。

 俺は盾を構えて、それをじっくり待つ。

 一瞬の空白。

 意識が一気に集中していく。


 そして、だからかゴブリンの動きを注意深く観察する。

 速度は自転車で走ってくるくらいの速度はある。

 前世でこれを正面から受けたら、怪我は軽いものではすまないだろう。

 そう、軽いものでは……


「ツムラ」

「……!」


 眼の前まで迫ったゴブリン、クロが俺に呼びかける。

 すると俺は――



 ゴブリンの攻撃を華麗に避けてしまった。



「あっ」

「あっ」


 俺とクロの声が同時に響いて。

 ゴブリンが、勢い余って地面に転がる。


「……」

「……」


 俺は、無言で盾を構え直し再びゴブリンが攻撃してくるのを待った。


 ひょいっ。


 そして、また避けてしまった。

 だってこう、正面から受けるの怖いんだもの。

 正直、商人を助けた時からうすうす感じていたことが、現実になってしまうのだった。


 俺、正面から殴りかかられるの怖いわ!

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