第26話

 説明が終わると、受付嬢さんがカードをくれた。

 冒険者カードというらしい。

 よくあるやつだな。


「冒険者カードは身分証としても使えます。なくした場合発行手数料がかかるので気をつけてください」


 本当によくあるやつだった。

 内容は……


 NAME:ツムラ

 LV:21

 SKILL:『火魔法:初級』『治癒魔法:初級』『水魔法:初級』

 ROLL:


 ロールの下が二行空欄になっている。

 ここには犯罪歴が記載されたり、冒険者が申請した内容が記載されたりするらしい。

 備考欄ってことか。

 スキルは、ユニークスキルとレアスキルは秘匿されるそうだ。

 ギルドに言えば、表示できるようにしてもらえるらしいけど。

 あんまり意味ないよな、それ。


「ところでこれ、スキルの数的にレアスキルを持ってるって周りにバレないか?」

「そこは解ってしまいますが、一般的にレアスキルを持っていることは、アドバンテージです。むしろ周りからの評価が自然と上がるかと」

「なるほど、ポジティブに捉えるべきか」


 何にせよ、話は終わった。

 受付嬢さんも、これで説明は以上だと言ってくれている。

 特に質問はないので、俺はギルドを後にした。


 それから、ちょっと裏路地に入って、荷物袋を肩に提げて壁により掛かる。

 すると、クロが荷物袋の中から声をかけてきた。


「順調に行った?」

「そっちは……寝てたのか?」

「寝てない……ごめん寝てた」

「解ってることなんだから、誤魔化さなくてもいいだろうに……」


 声がめちゃくちゃ眠そうだぞ。


「しばらくは、この街で活動する?」

「そうだな。ここにはダンジョンとかもあるらしいから、行ってみたい」

「ならまずは、宿を取らないと」

「その前に……日が落ちるまで時間がある。少し街を回ってみないか?」

「それも、いいと思う」


 というか、回ってみたかったのだ。

 だって異世界の町だぞ?

 普通に観光地を観光するより興奮する。


 というわけで街に繰り出した。

 クロも外を出て見て回りたいというので、人間モードで俺の隣を歩く。

 冒険者ギルドだと目立ってしまうので隠れていたが、町中だったら俺達を気にする人間はほとんどいなかった。

 なお、衣服は商人から購入したものを来ている。

 人間モードで着た衣服は妖精になっても、そのまま小さくなるらしい。

 便利だな。


「この街はニシヨツの街。王都から街道を歩いて西に4つ目の街だから、ニシヨツ」

「単純だなぁ」

「わかりやすい方が、勉強してない人でも覚えやすい」


 なるほど、中世的な事情か。

 しばらく歩くと、市場に出る。

 出店やらが立ち並び、非常に活気があった。


「どうだい奥さん。こっちの野菜も買ってくれるなら、これおまけしとくよ!」

「おいおいにーちゃん解ってねぇな、このマントはただのマントじゃねぇ」


 商人たちの、宣伝文句やらがひっきりなしに耳に入ってくる。

 ああ、異世界って感じだなぁ。


「ツムラ」

「なんだ?」

「せっかく出し、これから必要になるものを、色々買っておきたい。一緒に回ろう」


 そう言って、クロが手を差し出してくる。


「はぐれないように、ね」

「俺は子供じゃないんだから」

「今のツムラ、子供みたいに目を輝かせてるよ?」


 むぅ、そう言われると否定できない。

 仕方なく、クロの手を取る。


「――こうしてると、デートみたい」


 なんてクロに言われて、少し小っ恥ずかしくなって顔をそらしてしまった。

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